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愛なんだ。
とある問題……?
一体、なにがあったのだろう。
「──あっ、帰りのエネルギーか」
「そんなことはどうでもいいんです!」
そ、そんなこと……?
「もう──ぶっちゃけてしまいますが……いままでのお話でなんとなく感じていただいている通り、上世界と下世界では文明の発達にかなりの差があるんですよ」
「……たしかに。すごいハイテクだよね、上世界」
「そんな上世界でも製造工程や運転技術が国家機密に指定されているほどのマシーンのエネルギーが、下世界で見つかるわけがないんです」
「本当にかなりぶっちゃけるね……」
「もう、ヤケクソですよ」
そういえば、前にも国家機密がどうだって話していたな。
「じゃあ、やっぱりマオちゃ──コシュカちゃんは、上世界の中でも偉い人なんだ?」
「偉いというほどではありませんが……まあ、代々、王に仕えている家系の出身ですね」
「いや、それ、めちゃくちゃすごいよ!」
そんな上流階級のお偉いさんをいまのいままで部屋の押入れに住まわせ、パックご飯とミネラルウォーターしか与えていなかったかと思うと……背筋がゾクッとしてくる。
「だからその……エネルギーが足りない、というのは真っ赤な嘘だったんです」
「ええ! じゃあ、その問題ってなんなんだよ!」
「それが……ええと……」
なんだか煮え切らない態度だ。
「なにか──ボクに関係すること?」
「まあ、あなたが猫に転生できるようになるまで帰ってくるな、と言われているのはもちろんあるのですが……それはもう、あまり心配いらないとして……」
やはり彼女はモジモジしている。
「どんなことでも受け止めるからさ……正直に話してよ」
ここまで来たらもう、後戻りはしない。できない。
たとえなにを言われても、ボクは決して驚かない。
「あの……なんでしょう……」
「……」
「実は……その、あなたのことが……」
「ボクのことが?」
「……すす、好き……になっ、て……」
「え?」
「好きになってしまったみたいなんです……」
…………ひょぇぇえええーっ!
「えええ、ごめんごめん、ちょっと待って」
「なんですか、言わせておいて!」
「……えっ、本当に?」
「嘘をついているように見えますか!?」
彼女はいまにも泣きそうな顔で、瞳をウルウルさせている。
「い、いつから……?」
「最初は本当に……あなたをゴキブリから猫に転生させるため……それだけの理由で居候を申し出たのですが……そ、その、一緒に暮らすうちに…………」
「──え、じゃあもしかして、胡乃依は」
「わたしたちの愛を邪魔する憎き恋敵ですよ!」
敵、って……そういうことだったのか。
「…………でも、実はわたし、最初から諦めているんです」
「どうして?」
「だって……王の命令に逆らうことになるわけじゃないですか。それじゃあ、一族の面汚しですよ」
「でも、命令って──ボクがヤケを起こさないように見張るくらいで……」
「いえ……王からは、あなたが猫に生まれ変わる目処が立ち次第、速やかに排除しろ──という条件も課せられていました」
「こわいよ! 今後の人生でヘタに善悪ポイントが上下しないように、その場で殺れって?」
「はい……それで自分はどうしたらいいのか……」
「コシュカちゃん……」
どっと空気が重くなる。
「……本音を言えば、王にあなたを渡したくはないんです。しかし、わたしの立場上……」
彼女は俯いたまま顔をあげてくれない。
──。
「ちょっと待ちなさい!!!!!」
突然、部屋中の静寂を裂くように大きな声が響き渡る。
「こ、胡乃依……」
とりあえず…………どうやって入ったんだ……。
「──お邪魔します」
「遅い! 言うのがっ!」
「……とにかく、話は聞かせてもらったわ」
すごいナチュラルに参加してきたけど、そもそもなんでお前が話を聞いているんだよ。
「天成くん……やっぱりこの子、秘密を隠していたわね」
「……うるさいですよ、来世マンドリル」
「はあ!?」
なんだ、このやりとり。こんな状況で喧嘩するなよ……。
「…………まあ、この、コシュカちゃん?」
胡乃依が一歩、また一歩と彼女に詰め寄る。
「──逃げてんじゃないわよ」
「えっ」
「国がどうとか、王様がどうだとか……馬鹿じゃないの? 愛に勝るものなんてないんだから」
「マンドリルさん……」
「誰がマンドリルさんじゃ」
「──でも、どうしてあなたがわたしに?」
「わたしは天成くんが大好きだから……天成くんが誰のことが好きなのかも、よくわかってるつもり」
胡乃依…………。
「とにかく! あんたも天成くんのことが好きなら、筋だけはきちんと通しなさいよ。逃げずに王様と話をつけること!」
「……いいんですか、敵に塩を送って」
「ふんっ。失敗して泣きながら帰ってくるのを待ってんのよ」
…………泣いているのは、自分の方じゃないか。
「ありがとうございます、胡乃依さん……! わたし一度、上世界に戻ります!!」
そう言って、彼女がボクの方を振り返る。
「──あなたも一緒に、来ていただけますか……?」
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