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ニャンでもない日常。
「──ほらほら、早くしないと、遅刻してしまいますよ?」
この……ボクの前を嬉しそうにスキップしながら歩いているのは、異世界からやってきた少女『マオ』。
飼い猫の死を受け入れて前向きに生きていこうと決意した瞬間に、彼女が目の前に現れて愛猫と同じ名を名乗ったときは本気で運命を感じたが──どうやら“生まれ変わり”だとか、そういうことではないらしい。
しかし、いまはまだ事情を話せないものの、彼女は彼女でボクになにやら大切な用事があるようで……。
そういった意味では、ある種──運命的な出会いを果たした、と言えなくもないと思う。
そして、ここからが少々、厄介な話になってしまうのだが…………どうやらこの少女、異世界から片道分のエンジンしか積まずにこちらの世界にやってきてしまったらしい。とんだドジっ子さんである。
どうしたものかと思ったけれど、まさかまさか、彼女が『わたしを居候させてくれるなら死んだ猫に会わせてあげるわ!』なんて言うんだから、もう仕方がない。……結局、帰りの分のエネルギー? かなにかが溜まるまで、ボクが自分の部屋で面倒を見ることになってしまい、こうして登校中にまで周りをウロチョロされる始末だ。
──なんて解説をしているうちに、校門前に着いてしまった。
「あの、さすがに学校は勘弁してよ……」
「なにを言っているんですか! 学校こそ危険がいっぱいなんですから、わたしがお守りしないと!」
この“守る”とか“支える”とか、一体どういう意味なのだろうか。
「とにかく、家に帰っててくれよ!」
「……でも、いま、わたしがお家に帰るとお母様に見つかってしまいますよ?」
……うう。たしかにそうなんだよなあ。母さんにマオ……ちゃん、のことがバレるのは非常にマズい。
「あなたの邪魔になるようなことは絶対にしないと誓いますから!」
「むううん……それなら……」
こういうところで、ボクは甘い。
「それでは、教室まで急ぎましょうか。そろそろ本当に遅刻してしまいます!」
と、ボクたちが歩き出した瞬間──。
「天成くぅぅううううん!」
……また、面倒なのがやってきた。
「登校、今日から? お久しぶりだね!」
彼女は──木古芽 胡乃依。ボクの同級生で、幼馴染だ。
「…………あれっ、そっちの子は……わたしが知らない妹さんかな?」
「あっ。わたしはその……そうではなくて……」
「──じゃあ殺す」
「ええーっ!?」
胡乃依はそう、なんというか──“ヤバい奴”。
ボクに好意を持ってくれているのは、ボクだって……そこまでウブでも、難聴系でもないし……なんとなくわかるのだが、とにかく圧がすごい。
「……ねえ。あなたたちって、どういう関係?」
「うっ、運命のパートナーでしょうか……!」
おい、やめろ! なぜそこで挑発するんだ!
「マオちゃんはその、ちがうんだ。親戚の子、っていうか……」
…………どうするんだよ、この空気。
「──ま、今日は天成くんの久しぶりの登校記念日だし、大目に見てあげるわ。……ただし! いずれこのことは、きっちり説明してもらいますからね!」
はあ。一難去ったか。
なんとか助かったみたいだな……。
「…………お、おいっ! なんでさっきはあんなことを言ったんだよ!」
「その、なんというか──外敵、からあなたをお守りしようと……」
胡乃依はさっそく敵扱いか。
「それにしても……うふふふふ」
「な、なんだよ?」
「マオちゃん、ですか」
……しまった! また一難!
「──なんだか、安心しました」
「……安心?」
「あなたに少しずつでも、信頼していただけているのかな──って」
な、なんだよ……その笑顔。色々とその、想像しちゃうじゃないか……。
「お家のことですが、わたしは部屋の押入れでもどこでも、寝床があれば構いませんので。たまにご飯とお水だけいただければ……それで」
「う、うん。考えておく……」
その日は午後までずっと、授業が手に付かなかった──。
…………。
「──マオちゃん、ねえ……」
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