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優しくなれる。
あれから数日──。
彼女はすっかり、この家……というか、部屋の押入れがお気に入りの様子だ。
「……ねえ。いまさらだけど、本当にそんなところで大丈夫なの?」
「はい、意外と気に入っちゃって!」
「でもさ……ドラえもんみたいじゃない?」
「マオ──猫だけに?」
「えっ、ドラえもんはタヌキでしょ」
「……違いますよ、猫ですって!」
「嘘だ、嘘だ」
「本当です! ネズミに耳を齧られてああなったんですよ」
「ええ……じゃあ、調べてみようよ」
──こんな感じで、ボクたちも完全に打ち解けて仲良くやっている。
ちなみに、ドラえもんは猫型ロボットだ。
「ほら、わたしが正解じゃないですか!」
「なんでボクより詳しいんだよ……」
「常識ですよ、これくらい」
……当然、ボクだってそれくらいのことはわかっている。ドラえもんの知名度を舐めるんじゃあない。
この異世界人──こちらの世界のアニメ事情には詳しくても、“内輪ノリ”というものはなかなか理解できないようだ。
「マオちゃんには敵わないなあ」
「……あ、またマオちゃんって言った」
「別にもういいじゃん」
「いいですけど」
最初は恥ずかしかった呼び名も、だんだんと板に付いてきた。
「……いまからちょっとコンビニ行ってくるけど、なにか欲しいものとかある?」
「いつものパックご飯と、お水で」
「毎回思うけどさ、それでいいの? 飽きない?」
「…………本当はコーラが好きです」
こうして徐々に、向こうからもわがままを言ってくれるようになったのが、なぜか嬉しい。
「でもアレですよ、たかだか居候ですから……全然、お構いなく」
そう──自分でも忘れかけていたけれど……。上世界へ戻るために必要なエネルギーが溜まるまで、という条件で彼女を住まわせていたんだっけ。
「……そういえば、例の燃料っていうのはどうなったの?」
「それなんですが……まあ、わたしは構わないと思うのですが。一応、国家機密ということで……言えない決まりになっているんですよね」
「ああ、そうなんだ。面倒だね」
「ええ……。でも、順調ですよ!」
「それは良かった。じゃあ、行ってくる」
と、部屋の扉に手を掛けたとき。
「──待ってください!!」
……なんだ、なんだ。
「あ、あの…………」
ボクの鼓動が早くなっていく。
「……」
「……」
──沈黙。
「…………で、できれば、ご飯もチャーハンにしてもらっていいですか?」
──わがまま過ぎるのも、考えものだなあ。
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