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逃げたくなる現実。
家から一歩外に出ると、すぐに誰かの視線を感じた。
「あっ」
「天成くん、おはよう」
見覚えのあり過ぎる顔。幼馴染の胡乃依だ。
「……今日は、あの子は?」
まだ根に持っているのか。
「だからあの子は親戚で……しばらく前に、もう帰っちゃったよ」
「ふうん」
胡乃依がすっとボクの横に並んで歩き出す。
「マオちゃん、だっけ」
「う、うん」
「ねえ──それって、ただの偶然?」
「偶然、って……」
「…………わたしは天成くんの幼馴染だよ?」
いつになく真剣な表情だ。
「幼稚園の頃くらいからかな? ずっと一緒にいてさ……すぐ近くに住んでいたこともあったよね。引っ越しが決まったときはすっごく悲しかったなあ……」
そんな目をしないでくれよ。
「──わたし、あんな子、見たことない」
……そうか。そうだよな。
「あのね、たしかに自分でもわかってる……。天成くんのことになると嫉妬深くなっちゃったり、ついついカッとなったり……」
…………。
「でも、そうじゃないの。あやしいよ、あの子!」
「…………あやしい?」
「どんな理由で、どこから来たのかわからないけど──この状況で“マオ”だなんて名乗って……」
それ以上は聞きたくない。
「天成くんがどれだけマオちゃんを大切に想っていたのか知ってるから。だから……」
「──もういいよ。言いたいことはわかった」
「……わたしには、天成くんがあの子を庇う理由がわからない。もしかして、これは運命だーって、本気で信じてるの!?」
「だからもういいって!!!!!」
「…………あ、あの……」
──なにをやっているんだ、ボクは。
動揺して、混乱して、胡乃依を傷付けて。
「……ごめん!」
ボクは淀んだ空気に耐えきれず、その場から逃げるように全力で走った。
後ろを振り向く余裕なんて、もう、なかった。
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