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核心への確信。
いよいよ、この瞬間がやってきた──。
「…………わかりました。すべてお話しします」
彼女がゆっくりと目を閉じる。
「実は……どこから話していいのかわかりませんが──まず、わたしが下世界にやってきた理由からご説明しますね」
「……」
「わたしは国からとある使命を受け、それを実行するため、こちらの世界であなたに近づいたのです」
「…………その使命って?」
「──あなたを幸せにすることです」
「えっ」
なんだか話が上手く飲み込めないぞ。
「ええと……本当に説明が難しくて……つまり、ほら、前に生まれ変わりのお話をしたことがありましたよね?」
「うん。上世界の生物は下世界に、下世界の生物は上世界に──判定期間を終えたあと、転生するって……」
「そうです、そうです。そしてですね……あなたはその、なにを隠そう、上世界の国王の飼い猫だったんです……もともと」
「飼い猫!?」
あまりの驚きに声が裏返る。
「前世での行いが──というお話もさせていただいたの思うのですが、王に愛情をたっぷりと注がれた猫ちゃんは、見事、下世界で人間に生まれ変わることになったのです」
「それがボク……」
「飼い猫をとても可愛がっていた王様は、いつもいつもあなたのことを上世界から眺めていました」
えええ。
「──そして! ここから重要なのですが……あなたはこのまま順調に行けば、来世は上世界で再び、猫に生まれ変わる予定だったんです」
「そ、そうだったの?」
「そのことを知った王は大変喜んで……またあの子と一緒に暮らすんだと、毎日のように嬉しそうな顔で語ってくれました」
「猫は着替えてやってくる……」
ボクはふと、あの日ネットで見かけた一文を思い出した。
「……しかしですよ! 事故でマオちゃんを亡くしたあなたは、そのショックで1週間近くも引きこもった挙句、両親に対して捻くれた態度をとり続けましたよね!?」
「う……」
「おかげでいまや、あなたの来世での転生候補はゴキブリです!」
「ゴ、ゴキブリ……」
今日一番のショック。そうか、ボクはゴキブリか……。
「──そこで王は、慌ててわたしを下世界へと派遣することを決めたのです」
「たしかに後追い自殺でもされたら水の泡だもんな……」
「そうですよ! それで大急ぎでやってきたのに、ベストタイミングでトラックに轢かれかけて! あのままだったらゴキブリでしたよ、ゴキブリ!」
「ああ……そういうことか……」
あなたを守るとか、死なれたら困るというのは、そういう意味だったわけだ。なんせゴキブリだもんな。
「だからこそわたしは──“マオ”を名乗ることで運命の出会いを演出し、あなたに生きる希望を持ち続けていただこうと考えたのです」
「やっぱり偽名だったんだ……」
「はい、本名はコシュカと申します」
なんとなくわかってはいたけど、改めてはっきり言われてしまうと……。
「それでまあ──そこまでは比較的、順調だったのですが……」
──ですが?
「とある問題が発生致しまして…………」
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