離婚と慰謝料とゲーム

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離婚と慰謝料とゲーム

「悪いが離婚してくれ」  海外の単身赴任から帰って来たばかりの旦那から最初に告げられたのは、そんな一言だった。 「慰謝料は君の口座に振り込み済みだ、それとこの家の名義も君に変えておいた」  私が困惑で言葉が出ない事を良いことに、家に置いて有った貴重な私物をアタッシュケースに入れ直し、玄関先に移動する旦那。 「そうだ、僕が帰国したらやるつもりだった日本サーバー限定のゲームが来週届くけれど、僕は海外に家を移すことにしたから君にあげるよ」  そして私への選別の様に捺印が押された離婚届を渡した後、旦那は振り返りもせず玄関の扉を開けて出ていった。  私は足の力が抜けて座り込み、二度と戻らない旦那が出ていった扉を見つめ続けていた。  翌朝、離婚届を役所に提出して私はバツイチになった。旦那が残した不要な私物をゴミに出し、帰国前に用意していたプレゼントを質屋に入れ、両親には孫は諦めてと電話した。  専業主婦で慣れない都会暮らしにやっと馴染めたと思い始めていた矢先に旦那との離婚。  今さら田舎には帰れず、さりとて都会の仕事をしたいとも思えない。スーパーに買い物に行く気力が湧かず、買い置きしていた食糧だけで自炊生活する私。  家から一歩も出ずに一週間が過ぎた頃、家のチャイムが鳴った。 「お届け物です」  それは旦那が行っていたゲームだった。発売は先日らしく、最新作のフルダイブ型ゲーム機のヘッドギアが、大きなダンボールに幾重にも詰められた梱包材の中から出て来た。  どうやら予めゲームがインストールされた状態で3ヶ月分の費用は払い済みの様だ。用意周到なのはここでも発揮されていた。  久方ぶりに外出した私は銀行に立ち寄り、預金通帳を更新してから買い物に遠出した。電車の中で独り周りに気兼ねせず通帳を見れば、其処には慰謝料として振り込まれた金額が増えていた。 「一生遊んで暮らせるじゃない・・・」  旦那の実家は金持ちだった。田舎から大学に通っていた私と、どうして結婚したのか周囲からは謎がられていた。  家電量販店でフルダイブ環境に適した家具を買い揃え、運動不足にならないように健康器具も纏めて購入。嘗て無い支払金額になったが、慰謝料からすると雀の涙だったのは良かったのか少し悩む。  大学で友達になりメアド交換した人達にゲームをする事を送信した所、何名かから既にログインして始めている者も居た。  家に帰り、支度を済ませて後は寝るだけの状態になった所で私はヘッドギアの電源をオンにした。  私がこれから遊ぶフルダイブ型ゲームの内容は、剣や魔法で魔物を打ち倒すファンタジー世界だった。
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