01 安い八百屋に来たトシエ

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 カイシャに帰ってから、サンライズはチームメイトのボビーとシヴァを呼んだ。  揃ったところで、キサラギからさらに細かい話を聞く。  キサラギは端末をたたきながら説明した。  暗号名『コーダ・デル・ディアボロ』または『コーダ』。  ここ数年に九件、十一名以上の『要人』と呼ばれる人間をこの日本国内で銃撃している。  その中で命が助かった者はたったの二人。どちらも意識は戻っていなかったが。  撃たれた連中は、政界、財界の有力者ばかりだった。指定暴力団の関係者もいた。  犯人が特定できたのは、偶然ではない。  いつも犯行現場にマルに十字の印がついたカード残されていたからだ。  そしてマーク下にモノクロの悪魔のイラストがついていた。 「悪魔が狙っている、という意味かと思われていたのですが」  キサラギがマークをスライドで映しながら説明した。 「このマークが、音楽記号ではないか……というヤツがいて」  これが、『ヴィーデ』マークに見える、と昔ギタリストをやっていた刑事が言いだしたのだと言う。  調べてみると、マークは『コーダ』とも言われるということが分かった。  暴力団関係者から辿り、ようやく一人の暗殺者の名が浮かんだ。  それが 「これです。『コーダ・デル・ディアボロ』、ただ『コーダ』と呼ばれることもある、と」  その筋では、かなり名の知れた人物らしい。  ただ、正体は全くの謎で、誰の下で働いているかも不明だった。 「よく思うんだけど」  サンライズは、だらしなくもたれかかっていた椅子から急に起き上がって口をはさんだ。 「これって、ケイサツのシゴトだよねえ」 「常識では、そうなんですが」  とにかく都合が悪くなると、頭をかくのがキサラギのクセだった。 「わずかな手掛かりから行きついたのが、あの女性だったんです」 「もちろん、オンナだからって警察はちゃんと調べたんでしょう?」  女性には全体的に厳しいボビーが今度はキサラギを攻撃する。  キサラギは頭をかき続けている。 「証拠がないので、本人に直接は……しかしマークはされています」 「証拠がないと、オレたちの仕事になるのか?」  サンライズもぶつくさモードから抜けていない。  それでなくても忙しいのに。  しかも今日は本人を見たし。 ―― あれはどう見てもただの主婦だ。  一袋百五十円のキュウリを買うのにも、あんなに慎重だったじゃあないか。  キュウリに慎重になるのが悪いと言ってるわけではない。それはそれで立派な仕事だと思う。しかし、それと有力者の射殺とどう結びつくのか。 「じゃあ、ホントのこといいますとね」  急にキサラギの口調がベタになった。 「容疑者は、二人いるんです」 「ほーら」 「読めたぞ」  サンライズとボビーはキサラギにボールペンを投げつけた。 「らしい、って方を警察が追って、どうでもいい方をこっちに押し付けたなぁ」 「どうでもいいってワケじゃあ、ありませんよう」  キサラギはフォルダーで必死にペンの攻撃をかわしている。 「あの女性は、元々身寄りがなかったんですよ」 「身寄りがなければ、全部暗殺者になるのかよ」 「そうだそうだ」  シヴァまで便乗している。  このキサラギ・ユウスケ、MIROC《マイロック》に入ってまだ二年ほどの若僧で、作戦課内でももちろん、カイシャの中でもいじられキャラとして有名になりつつあった。  本人はしごくまじめでいいヤツなのだが、それに、それなりのイイ男なのだが、どうも詰めが甘い、というのが特務課連中の総合評価だった。 「とぉにぃかぁく」  キサラギ開き直る。 「見張る、って決まったんだから、見張ってください、いいですかサンライズ・リーダー。それから飛んできたボールペンは返しませんよ」 「それ、もともと作戦課の備品だよ」  シヴァがしれっと言った。
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