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ムラカミのダンナは、一回り縮んだようにみえた。
「カアチャン、ラーメン屋で働いてたんだ」
当時の事を思い出しているのか、ほんわかした笑顔を浮かべている。
「会社近くの、行きつけのラーメン屋。あんまし客がいなくてね、すぐ食えるから、好きだったんだ」
「うん」
「明るいし、何だかさ、かわいいとこあるだろ? アイツ」
決して美人というわけではないが、言葉や動作の端々に、おぼつかないような、あぶなっかしい所があってつい、守ってやりたくなる、そんなタイプだったと。
「身寄りがなかったんだろ?」
「ああ……ラーメン屋のおやじがさ、道ばたで拾ったんだぁコイツ、って笑いながら言ってた……後でアイツに聞いたら、そうなのよ~って笑ってた」
行き倒れ同然のところを、ラーメン屋のじいさんが連れ帰って介抱したらしい。
「惚れちゃったらさ、もうあとはアタックあるのみだよ、最初は全然、脈がないと思ったのに」
家庭を持つのが怖い、と言ったそうだ。
それを聞いてサンライズは胸が痛んだ。
「一緒になれた時は、もう舞い上がっちゃってよ」
判るわかる、とうなずいた。
「でもさ、」
ここ煙草吸ってもいいかな、と急に聞くので、隅に控えていた記録官をみる。
「主任がついていて下されば」
とオーケーがでたので、ダンナは胸ポケットからマイルドセブンを出して、火をつけた。
「カアチャンが、急に出かけてさ……なかなか帰って来なかった」
結婚二年目に入った、ある夏の晩だった。
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