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「電話が鳴って、オレが出たらすぐ切れた。あれ? と思ってしばらくしたら、また電話。今度はカアチャンがすぐ出た。はい、はいって返事してすぐ切った。ちょっと、イヤな感じだったんで『どうしたんだ』って聞いたら、代引きの宅配、って答えて、今から届くって言いながら、財布を用意してた。間もなく、荷物が届いた。オレが『どっからだい』って聞いてみようとしたら急に声が変わってさ」
見ないで、と手を払われたのだと。
「そん時は、怖かった。案外オレさ、亭主関白、つうかいつもなら『オイコラ見せろや』なんてひったくる所だったけど、その時は、できなかった」
彼女は一人で中身をあらためていた。
そしてその晩、また一人で出ていった。
「次の日のニュースを見るのが、怖かったよ、本当に」
ダンナは、力をこめて煙草をもみ消した。
「朝刊には載ってなかったが、昼から大騒ぎになった。夕刊の第一面だ、防衛庁長官、自宅で射殺される」
……なんだか、二回目の時はもうショックはなかった、やっぱりな、という気持ちしかなかった。力が入らないっていうのか……
それから、何回か同じようなことがあった。
たまに、
「車で送って欲しい」
という時もあった。
カアチャンに乗り移った『アイツ』が、そんでもオレの事はあてにしてるのか、って思って、変な話だけど、うれしかったかもな。
ちょっぴりだけどよ、うん。
警察に言えなかった理由? そうだね……
いつもいつも『あのコロシヤ』だったら、さすがにオレだって、まずいと思っただろうよ。
でもさ、トシエはほとんどいつも、トシエだったんだよ。
悪いことしている時の記憶が、全然ないみたいなんだ。
オレに何ができたって言うんだ? どこに相談しろと?
でも、こないださ、うれしそうにオレに言ったんだよ。
あのね、今日さ、マイロックって所のアオキさんて人がね、人捜しを手伝ってくれないか、って来たの、ううん全然怪しくないってば、名刺もくれたんだよ。
ワタシもまだまだ、隅におけないねぇ、トウチャン。
こないだカアチャンがケガした時、来てくれたろ?
あん時、すぐアンタだって分かった、でもよ、カアチャンが絶対に他人に話さないで、って言ってたし。
バレたら刑務所行きだろ? 死刑かも……そんな事できっかよ。
でもさ、ちょっぴり、思ったんだよ。
この人なら、もしかしたら助けてくれるかも……って。
どうしてそん時、素直に助けを求めなかったんだろう。
悔やんでも悔やんでも、悔やみ切れねえ。
スキャンしなくてもみえる。
ムラカミの心の傷はだらだらと血を流し、サンライズの心を打ちのめしていた。
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