01 安い八百屋に来たトシエ

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 十分の休憩後、髪をちゃんと整えたキサラギが戻ってきた。  容疑者その二の、ムラカミ・トシエの動向調査の報告があった。 「ここ二ヶ月は特に目立った動きはなし。朝六時半に起きてダンナのお弁当を作り、七時半にはダンナを送り出し、そうじ、洗濯、買い物、近所の奥さんたちとおしゃべり……週に一回火曜日は十時から近所の押し花教室に、これは正午まで。これまで二回、一人で電車に乗って出かけています。どちらも池袋にショッピング、あと一度、ちょうど昨日ですが、ダンナと電車で出かけました」 「どこに?」 「駅近くのマックで昼を食べ、買い物してから午後の二時過ぎに、新宿の映画館に入るところまでは見ましたが、後は不明です。夜九時過ぎに帰宅して」  キサラギはいきなり頭をかいている。 「食事でもしてきたのでは。とにかくショッピングバッグをいくつも提げてました」 「食事した店は」 「そこまでは……」  ボビーが、ばりばりと頭を掻いているキサラギの様子に眉をひそめてから、手ぬるいわねえと鼻をならした。  サンライズもつい、彼をまじまじと見る。  キサラギ、これ以上は抜け毛が危険だ、オレよりずっと若いのに。 「訪ねてきた人物はいないの?」 「二人……一人は近くに住むダンナの母親、もう一人は下の階の住人で、醤油を貸してほしいと」 「長屋みたいだねえ」  あとは集金が二件、セールスが四件、全部コーダとのつながりはないことを確認した、とのこと。 「ダンナは、何のしごと?」  シヴァが聞いた。 「建設会社で設計をしているそうです。勤続二〇年だとか」 「じゃあ出張が多いだろうに」  とサンライズ。自分が出張の多い仕事なので、人の事も気になる。 「それがですね、ここ二ヶ月にはなかったようです。それに」  ここはちゃんと調べたらしく、急に声がはっきりと大きくなった。  その会社に連絡して、仕事内容を確認したのだそうだ。 「転勤もしたくない、とのことで、本社の内勤希望を出してます。ここ七年くらいは」 「結婚してからだな……」  サンライズは、手元のファイルにもう一度目をやった。 「ムラカミ・トシエか」  写真のコピーがついていた。  撮られたことにも気づかず、彼女は右端に切れた 誰かに向かって、悩みもなさそうな横顔をみせて笑っていた。
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