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――中野優子の証言。
竹子お姉さまが亡くなったときの、あの通り雨を語る者はいないでしょう。なにせ一瞬のことでしたから。ただ、確かにほんの数秒だけ、強く激しい雨が降ったのです。はい、お姉さまの眉間が敵弾に撃たれた瞬間でございました。
その雨が敵の動きを鈍らせ…そのおかげで私たちは劣勢の中でも自陣に撤退することが叶ったのです。ええ、多くの者が救われました。それに、お姉さまの首を相手に奪われずにも済み、無事に埋葬することも。
信じられぬことなのですが、確かにあの雨の中で私は何者かの泣き声を聞いたのです。とても痛々しく、胸が締め付けられるようなあの声。
はい、あの豪雨は何者かの涙でございました。勿論、証明する術はありません。
いまでも私は不思議に思うのです。
あの一瞬の、視界を覆いつくすほどの大雨。あんなに激しい涙を流すのは、いったいどのような者であったのだろう…と。
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