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松明の火が幾つも山を登ってくる。運ぶのは十人ほどの男たち。浪人姿が多いのは変装なのか、あるいはただの雇われ者なのか。どちらにしろ、こんな夜中に山の裏手から忍んでくる者などろくなものではない。
その一団の頭上から、大きな羽音と共に家茂が襲い掛かった。向こうも化物のことは警戒していたのだろう。浪人の一人が長銃を構える。そこへ竹子が彼らの横腹から奇襲をかけた。周辺の男たちを蹴散らして、浪人の腕へ薙刀を一閃。ぽぉん、と腕が飛んだ。家茂は浪人たちが奇襲に動揺している間に三人も打ち倒している。彼らは自分たちの頭上の化物と、横からの襲撃者とを見比べて、その片方が女と知るやなんとも嫌らしい笑みを浮かべた。竹子のよく知る侮蔑の顔。先にこちらを倒してしまえと一気に襲い掛かってくる。
だが竹子はこの手の顔を向けてくる者たちに、負けたことはない。
一人目を薙ぎ払い、二人目を柄で打ち、三人目を大ぶりに斬りはらう。彼らにも彼らなりに信念をもってこんなことをしているのかもしれないが、やり方が邪道だ。邪道が正道に勝てた試し無し。竹子は己が信念でもって薙刀を振るう。幕府への忠義のため、会津の魂のため、己の強さを証明するために。
「見事なり‼」
家茂が手を打つ。すでに残りの者たちも彼の手によって倒されて、自分たち以外の者は全て地に伏せていた。
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