主砲の矜持

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そしてその清武への非難は、いつしか身内からも漏れ始めた。 確かに、何年もホームラン王を取り続けている清武も、ここ一、二年はその打棒に陰りが見え始めていた。 ホームラン数も、最初にキングを取った年の48本から、54本、50本、49本、43本、37本、40本、34本と、年々減少傾向にある。 去年なんかは、広島カプリシャスの鬼怒川選手と同数で並び、両名がホームラン王となるなど、その圧倒的な力の差は無くなりつつある。 一方、打率も下がり続け、近年は“ホームランか三振か”みたいな状態。 しかも守備も花形のサードから、年齢を重ねるごとに打球処理へのもたつきが指摘され、一昨年からファーストにコンバート。 そのファーストでもポロリンポロリン…。 ファーストしか守れなくなってしまったせいで、ラビッツの助っ人外国人補強もままならなくなり、“去年と今年はピッチャー以外はスコアボードに漢字の名前ばかりが並んでいる状態。 清武の存在が、球団の中でアンタッチャブル化してしまったのだ。 そんなことから、身内からも公然と批判の声が聞こえてくるようになる。 その中心人物は、清武が4番になる前の第81代4番バッター、岩下ケニー大輔、ファンにはケニーの愛称で親しまれている現役選手だ。 ケニーはもう40歳を越えていて、最近は試合終盤の代打の切り札に…、でもないか。 まあいわゆる代打要員。  でもケニーにも元4番のプライドがあるので、ランナーのいない時の代打ではなく、終盤の勝負所のその一つ前の辺りで代打に登場するという、昔関西のライバル球団、大阪キャッツにいた“ホンマに出してどないすんねん”で有名な浪花の春団治的な扱いのバッターだ。 でも今でもケニーは、テレビ中継全盛時代にファンになった地方のオールドファンへの人気も高く、グッズの売れ行きもそこそこなので、今でも現役を続けられているとの噂だ。 そのケニーが、最近ことあるごとに現4番バッターの清武を非難するようになった。 守れないならファーストを若手に明け渡し代打に専念するよう、自分から監督に申し出ろと。 それでもスタメンを張りたいなら、FAで指名打者制のあるパリーグに行けと。
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