主砲の矜持

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それを見た私は、慌ててスマホを立ち上げる。 ニュースアプリだけでなく、ツイッターのタイムラインにも、既にその情報が溢れていた。 今夜11時から緊急記者会見だと。 私は急いで家に帰り、テレビをつけ、お父さんと並んでテレビの前に座った。 球団の親会社系列のテレビ局が記者会見を緊急生放送をするらしい。 そして時間になり、ニュース番組をすっ飛ばして会見が始まった。 そこで清武が語ったのは…。 実は何年も前に練習中に打球が目に当たり、それ以来片方の目の視力が極端に落ちてしまったこと。 それを今まで監督とトレーナー、球団幹部以外には隠し通してきたこと。 騙し騙しやってきたけど、徐々に悪化し、限界がきたこと等々。 まだ35歳。代打に専念するなどしてこのまま騙し騙しやれば来年も何本かはホームランを打てる可能性もあるけど、すべてのプレイを全力で、との自分のポリシーが守れなくなること、そして、そんな自分が出ることでラビッツに迷惑がかかることなどを考え、今シーズン限り…ではなく、今日の試合を持って引退することを決め、明日のホーム、水道橋ドーム最終戦には出場しないと、断言した。自分の中で、“代打を出されたら引退”と決めていたのと合わせ、今夜は自分から監督に交代を申し出たとも。 明日の試合に出ないのは、一度引退を口にした以上、自分はその戦いの場に出る資格は無いとの思いから。 そこは清武自身の美学なのだそうだ。 そして記者からの質問の後、最後にファンの方々方へとのことで、清武から一言挨拶があった。 絶えず周りからいろいろ厳しいことも言われていたけど、それはラビッツの4番としての期待の裏返しだと、自分に絶えず発破をかけ続けていたけど、その気力が薄れてしまった自分が不甲斐ない。 守れない自分ができることはホームランを打って点を取ることなのに、近年それもできなくなってきた。ファンの期待を裏切って申し訳ない、と泣きながら謝った。 誹謗中傷への不平不満は一切漏らさずに…。
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