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これでね、あなたは俯きもじもじとした。
ついこの間までおむつをしていたのに、もう恥じらいというものを知り始めている。
わたしは腰を屈め、「うん、なぁに」と微笑んだ。
「これで、かぁえぇしょん買える?」
春とはいえ、冷たい風が吹く日だった。
「カーネーション?」
コクコクと頷いたあなたは、自分の言葉が通じたことにパッと表情を明るくした。そうか、母の日か。
「うーん、これじゃ買えないなぁ」
わたしの声を聞いたあなたの頬は、笑みを失い、困ったような、少し悲しいような、不思議な形を作り出した。
「お母さんにあげるの?」
「うん……」
あなたはなおも、手のひらのコインを見つめた。見つめれば増えるかのように。
「じゃあね」しゃがみ込んだわたしは、しっと唇の前に人差し指を立てた。
外でお昼を食べたまま、小さい黒いエプロンには小銭入れが入っている。
「おねえさんが魔法を掛けてあげる。もう一回パーしてごらん。目をつぶって」
ぎゅっと目を閉じたあなたのまつげは、女の子のように長くてタンポポの綿毛のように柔らかそうだった。
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