第3話 突然の好意

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第3話 突然の好意

 4月、よく晴れた清々(すがすが)しいある日の正午。  時々爽やかな風が吹いた。  ちりこは汗だくになって自転車をこいでいた。  落ち込んだ気分を払うかのように力いっぱい自転車をこいだ。    自転車に乗り顔を体をビュンビュン通る風が気持ちが良い。  お店が並ぶ通りでランチのできる場所を求めて走っていると一軒のログハウス調の喫茶店に目がとまる。  ちりこは滅多に喫茶店には入らない。  幼稚園の子供が二人もいると他のお客さんの事が気になってくつろげない。  何より今は外食もすごく贅沢(ぜいたく)なもの。  その日は2件の面接とも断られめちゃくちゃへこんだ。  毎日旦那への恨み事ばかり考えてる自分にちりこは心底嫌になり。  このままじゃ良くない。  久しぶりの喫茶店で気分転換をと思ったの。  子どもたちにカリカリしているところを見せたくない。  八つ当たりしたくない。  500円ランチにヤッターと小躍りしそうになった。  ――まさか彼に出会うなんて。  ちりこの人生はやっと好転する。  彼が風を運ぶ。 「ここ相席してもいいですか?」  突然話しかけられちりこが顔を上げると信じられない人がいた。  喫茶店のコーヒーの鼻腔(びくう)をくすぐる香ばしい香りがする中一瞬柑橘類の香りがした。 「はいっ」 「あの。空手教室に来られている花沢さんですよね?」 「はい花沢です。いつも子供達がお世話になってます」  勝也先生がなんでいるんだとちりこはびっくりした。    ちりこは人見知りだし気の()いた会話が出来ると思えず焦った。  けれど二人は不思議なぐらい自然に会話が弾んでちりこは驚きを隠せない。   気づけば幼稚園のお迎えの時間が迫ってきてる。 「すいません。幼稚園のお迎えがあるので。帰ります」  楽しかった。 「俺も帰ります」  勝也先生はさっと伝票を取ってちりこが払うと言ったのにちりこの分も払ってしまった。    喫茶店の外に出てちりこは勝也の方を振り向いた。 「ごちそうさまでした。じゃあ失礼します」 帰りかけたその時。 「待って」  ちりこは 勝也先生に腕を掴まれてそのまま抱きしめられた。  ふわっと柑橘系の香水の香りがした。  ドッキンドッキン。  ちりこも勝也も胸の鼓動が高鳴る。早くなる。  ちりこは何で勝也先生に抱きしめられたのか分からなかった。  久しぶりに男の人に抱きしめられてなんだか安心するななどと思ってしまう。 「あなたが泣いているのを見てからずっと気になってました」 「えっ?」 「突然でびっくりさせてしまうかもですが、俺はあなたを好きになってしまったんです」 (ええー!)  思わぬ勝也先生の告白にちりこはどこか嬉しくも戸惑っている。  携帯電話のアラームが鳴った。
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