第4話 忘れてたの。恋なんて。

1/1
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

第4話 忘れてたの。恋なんて。

「ごめんなさい。もう帰らないと」  ちりこは少し切なかった。  抱きしめられ突然の告白に胸が踊り始めたことに気づいてしまった。 「俺はまた会いたい。いつ会えますか」   そう言われちりこは勝也先生とまた会ってもいいかななんて思ってしまったけど。 (私まだ一応の旦那がいるんだよ)  なにより子供達の空手教室の先生なんてまずくないかな?  理性がはたらく自分がいる。    ゆっくりと勝也はちりこを抱きしめている腕を緩めるとまっすぐ見つめた。  勝也はジャケットの裏ポケットから名刺と万年筆を出してさらさらと名刺の裏に美しい字で書き上げちりこに握らせた。 「俺の電話番号とメルアドです」  ドキッとする。  勝也先生の手は温かくて大きくてゴツゴツして男らしい手だと思った。  懐かしい感情がちりこの心の奥の方から蘇る。    チク。  胸に刺さっていく。  恋心。  ジワと溢れ出してくる。  まだあったんだ。  異性の誰かを愛したい気持ち。    愛する我が子達に捧ぐ無条件の愛とは違う種類の愛情。    久しぶりのときめき。  キラキラとそれは灰色だった心にそっと光った。  抱きしめられた。  もう一度抱きしめられたい。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!