【短編・完結】トイレと涙と勝ち組と

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僕は契約満了書で拭こうと決意した。 社長なのに、情けない扱いを受ける日々なんて耐えきれない。 たかがシリ、されどシリだ。 メリットのない多大な金額の取り引きになるが、背に腹はかえられない。また稼げばいいだけだ。 トラウマに振り回される人生なんていらない。 考えぬいて社員には迷惑がかからないようにしよう。 どこまでいっても情けない自分。 契約満了書は溢れた涙で斑点をつける。 紙をシリに当てる瞬間「社長!探しましたよ。声が聞こえたので来ました。何かありましたか?大丈夫ですか?」息を切らした声がトイレへ広がる。 懐中電灯の光と、希望の光が舞い降りた。 息づかいの多さから1人ではないことを察する。 「特に何もないですよ。社長がトイレットペーパーがないって困ってたので、探してきてたとこです」 先ほどとは別人のイジメリーダーの声質。 僕は「大丈夫だ。トイレットペーパーがきれてるから、急いで持ってきてくれないか」なるべく明るい声で言う。 駆けつけてくれた数人はすぐにトイレットペーパーを女子トイレから持ってきてくれた。 「ありがとう。助かったよ。あと少しでシリがかぶれるとこだった」 個室から出た僕がバツの悪い顔をすると、彼らは「社長も意外におちゃめなところがあるんですね。怖い人かと思ってました」優しい笑みたちがトイレへ溢れた。 混乱と焦りが引いたとき、駆けつけてくれたメンバーのポロシャツに書いてある文字が……僕の目から、涙を流させた。 先程とは違う種類の涙。 イジメ撲滅団体ハート。 小学生のときから、今までの長い間。つらかった。 彼らに救われたのは僕だった。 間違っちゃいなかった。 イジメを無くすこと。 数日が過ぎ、リーダーは、私情での不必要な電気設備の停止、悪質な下剤の投与、録音で残った音声で発覚した恐喝で書類送検された。 僕はというとイジメ撲滅団体を立ち上げ、引き続きいくつもの団体に寄付や支援を続けた。 この世界からイジメで傷つく子供がいなくなるよう、願いを込めて。
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