【短編・完結】トイレと涙と勝ち組と

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「社長、はした金に興味はありませんよ」 鼻で笑うような声。続けて彼は言う。 「ミシン目1カットじゃ話にならない。5ミシン目までですよ。つまりその満了書の破棄」 耳を疑うというレベルではなかった。絞り出すように答える。 「君……あなたはもしかして」 「勝ち組の社長さん、さっきの会議でオレの顔見ても気づいてなかったみたいですね」 「……やはり」 「電気設備の点検依頼、コーヒーへの下剤投入、通るであろう通路のトイレを確認し、すべての紙を取り除く作業。全ててめえみたいなやつに対してだ。一苦労だったぜ」 まさに奇襲。 こいつは生まれつきの腹黒い男、どこまでいっても僕のイジメっこ。 「そこまで……こんなことして何になる。もう昔の君と僕じゃないんだ」 「そう、その通りだよ。昔のオレとお前じゃない。だからこうなった。いつまでもオレだと気づかないお前に、何度もへこへこと頭を下げていたオレの気持ちがわかるか?」 ドアの向こうにいる男が、イジメっこのリーダーであったなんて今までまったく気づかなかった。 なぜなら、小学校のときはまともに彼の顔を見る勇気が無かったから。 リーダーだった男は「さあ、早くしろ。ケツが乾いたら、ケツもパンツにも匂いがべったりだ。一流企業の社長さんが哀れな存在になるぜ。あれだけ偉そうにしてたやつが」吹き出しそうに笑っていた。 「わかった……これは破棄する」 「いい判断だ。後からやっぱり止めたは無しだ。全部録音済みだぞ。今の言葉を抜き出して、会議にかけることにするからな」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加