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歌詞、届く!
衝撃的な重大発表の翌日──。
1週間に渡る過酷なレッスンを乗り切った私たちのもとへ、念願だったオリジナル曲の歌詞がファックスで届けられた──の、だが…………。
キャンドルのライトが
おれのシャドウ揺らす
夜がもっと激しくなる
止まらない
指輪を浮かべてる
グラスを傾けて
誘うようにワインをこぼす
指先はエロス
なにもかも
壊してしまえ!
なにもかも
狂わせてしまえ!
おまえの瞳に映る
星の瞬きより いまは
その唇を奪って
朝を迎えようLovin’ you
──ロックが強過ぎる!!!!!
アレだよね、私たちってアイドルグループだよね?
いやいやいやいやいや……これは……。
全員で顔を見合わせて困惑していると、すぐに菅野さんから電話がかかってきた。
『みんな……歌詞にはもう目を通してくれた?』
「み、見ましたけど……」
『…………本当になんか、ごめんなさい!』
「え?」
『ふざけているワケじゃなくて、これがウチの社長の作詞スタイルなの……』
「それは、わかりますけど」
この曲なら正直……センターじゃなくていいよなあ。
『私も指摘したんだけどね、意地になって“絶対に自分で書く!”って……これでも3回は修正した結果なのよ』
「もう、他の方に変更とかはないんですか? これで決定なんですか!?」
『昨日言ったように、もうほとんど完成状態だからね……いまから外注っていうのは間に合わないと思う』
「そ、そんなあ……」
ただただ、絶望しかなかった。
昨日までのセンター争いの雰囲気は何処へやら、一転して押し付け合いがはじまりそうな予感すらする勢いだ。
「ま、まあ、意外性はあるかも?」
「インパクトだけならサイマジョ超えだよね……」
ほぼほぼ全員があきらめムードをプンプンと漂わせている中、かがりんが慌てた様子で受話器を握り、声を張り上げた。
「…………奈央が詞を書けばいいんですよ!!!!!」
──さてさて、なぜ唐突にこんな発言が飛び出したのか?
そう、みんながすっかり忘れていたであろう私の文学少女キャラを、かがりんだけはずっと覚えていてくれたのだ。
……だけど、作詞なんかまともにやったことないし……。
「──ごめん、私、自信ないな……」
「これよりは絶っ対マシだから大丈夫!!」
かがりんがファックス用紙をピラピラとなびかせる。
「……菅野さん、それでいいですよね!?」
『えっ……ええと……』
「菅野さん!!!!!」
『…………わかりました。ただし、期限は今日いっぱい。それまでに詞をファックスしてもらえれば、私から社長に頼んでみます』
その瞬間、寮のロビー全体に歓喜の渦が広がった。
「奈央、頼んだからね……!」
「としお頑張れっ!」
「もっとアイドルらしい曲をお願い〜!」
みんなの視線と期待を一身に受ける。こんな経験は、人生ではじめてだ。
やるしか…………ないよな。こうなったら。
私は早速、スマートフォンに送られてきたデモ音源に耳を通すことにした──。
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