私なりの作詞。

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私なりの作詞。

「タン、タンタン……タタタン……」  菅野さんから送られてきたデモ音源を聴いてみると、私たちのデビュー作は疾走感があり、勢いやテンポも良く、ノリやすい──まさに王道! といった感じの、アイドルソングらしい楽曲だった。……ますます、なぜあんな歌詞を付けたのか理解に苦しむな。 「……奈央、どうしたの、さっきから?」 「え?」  かがりんがヘッドホン越しに話しかけてきた。  ちなみに──余談ではあるが、レッスン期間が終了したため強制的にあだ名で呼ばされる縛りはなくなり、現在、私たちはそれぞれお互いを好きなように呼び合っているのだ(それについてはいずれまた、詳しく紹介しよう)。 「ずっと、タン、タン……って口ずさんでるからさ」 「ああーこうやってリズムを取らないと。用意された曲に歌詞を付けるって、意外に難しくて……」 「へえ。そういうものなんだ?」 「タン、タン、タタタン…………」 「……あはは。完全に自分の世界だ」  そう笑うかがりんと意味もなく腕をブラブラさせ合いながら、私はまた、詞を付ける作業へと戻っていく。 ──作詞って、こんなに苦戦するものなのか!  あの。あれじゃないの? 適当にほら、親に感謝して、なにかを探して、海岸沿いのカフェテリアで自転車に乗りながらバスを追いかける僕の気持ちは君に届かない〜みたいなことを書いておけばいいって…………ネットで見たのに!  メロディに言葉を当てはめるだけでひと苦労だし……作詞家の人って本当にすごいなあ。私も趣味で小説を書いたりするけど、自分の言いたいことや伝えたいことを自由に表現できる小説と違って、“歌詞”はAメロ、Bメロ、サビ──の流れに沿って、約4分でその世界観を構成しなければならない……という制限がある。 「…………もう、わかんないってぇぇえええ!」  時計に目をやると、タイムリミットまであとわずか。焦る気持ちを抑えられない。考えれば考えるほど沼にハマっていく感覚だ……。 「タ・タ・タ・タ・タは、だよ」 「…………かがりん?」  タ・タ・タ・タ・タは、ありがとう……って、どういうこと? 「ま、なんでもいいんだけど……。ごめんなさい、愛してる、大好きだ──思いついたままを書けばいいんじゃないかな」 「思いついたまま……」 「奈央は考え過ぎなんだよ、きっと」  そうか……自分らしく、自分の言葉で──作詞って、小説と同じなんだ!  私はそれから一気に歌詞を書きあげ、大急ぎで菅野さんにファックスを送った。  これがいまの、私の気持ち。  どうか届いてくれますように…………。 信じられないほど いそがしい毎日 知らなかったドキドキが 会いにくる まだ見たこともない ワクワクもあるはず それがなにか? 気になるから 夜も眠れない 夢の場所 目指したいなら 階段を飛ばして進もう! めぐり逢えた奇跡に 涙をこぼすより いまは たくさん汗を流して… 私たちならやれるセブンステップ!
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