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「…あー、藤倉一織です。好きなタイプはぁ、黒髪短髪ちょっと吊り目で運動が得意で格好良くて無意識の上目遣いがあざとかわいくて結構チョロいのがたまに心配だけど心根が天使か?ってくらい優しい子です。名前にサ行があると尚いい」 「…ピ、ピンポイント過ぎる」 まるでやる気の感じられない自己紹介にも、女の子達はきゃあきゃあと色めき立つ。 どこを見ているのか分からないような目をしながらも好みのタイプだけは事細かにはっきりと告げる様子は何ともちぐはぐだった。 しかし彼の話す内容は、彼らと同じ学校なら誰のことを指すのかすぐに分かってしまうものだった。 自分の番が終わるとまた目を伏せて、机の上のオレンジジュースをぼうっと眺める儚げな姿。続く他のメンツの自己紹介などそっちのけで、彼の一挙手一投足に女の子達は夢中であった。 …もう少し愛想良くすべきだろうか。 ふとそんな考えが過るが、正直彼自身もこういった場は好きではなかった。ただ一人、あの人物さえ関係していなければすぐにでも立ち去ってしまいたいくらいには皆の視線に辟易していた。 しかしこれは他でもない、自分から言い出したことだと薄いオレンジ色を見つめながら少し前のやり取りを思い出す。 何故もっと上手く立ち回れなかったのか。 狭い個室で長い脚を窮屈そうに組み替えながら、彼は小さく溜め息を吐いた。
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