2_side.S

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2_side.S

「え、あいつ無理になったの?」 「マジかぁー!こっちも向こうも人数調整してたのになぁ…どうする?」 「どうするも何も、今からでも誰か暇な奴探すしか…」 廊下を歩いていると、ひそひそ話をする友人達が目に入った。一人は同じクラスの奴と、もう二人は別のクラスの奴らだな。 確かサッカー部だったような。 何やら困ったような雰囲気だけど、何かあったのだろうか。 少し気になった俺はひそひそ相談しあっている集団に近づいて、声を掛けてみた。 「なぁ、何かあったのか?」 「「「澤っ!!!」」」 「うわ、びっくりした…いきなり大声出すなよ…。で、何か困り事か?」 「それがさぁ、聞いてくれよぉ!いきなりなんだけどさ、」 「しっ!いや悪い。何でもないんだ、気にしないでくれ」 「そうそう、お前が心配するようなことじゃあねーよ!」 一人目の口が一瞬塞がれた気がしたが、本当に大丈夫なんだろうか。 返された答えはどれも明るく彼らの顔には笑顔が浮かべられていたが、どこか一線を引かれてしまった気がした。 俺を心配させまいとしたのか、それとも聞いちゃいけないことに首を突っ込んでしまったのか。どちらにせよ俺は、少し寂しい、なんて思ってしまって…。 「そっか…」 自分でも驚く程頼りなげな声が出てしまった。それが彼らにも伝わってしまったのかもしれない。 「あぁ違うんだ!!決して言いたくないとかじゃなくて!」 「そうそう!お前のことは頼りになる奴だと思ってるけど今回のことはちょっとまた違うというか!」 「お前が凹むと俺らも凹んじゃう」 「お、おう?何かゴメンな?」 別に、そこまで落ち込んでたつもりはないけど…。皆優しいな。 だけど俺には言いにくいことみたいだから、少し寂しいけどやっぱり見なかったことにしよう。 でも何だろう、俺には言いにくいことって。 気になるなぁと思いながら踵を返そうとしたところで、クラスメイトの友人が呟いた。 「その、さ…。合コンやるんだけど」 「おいっ」 「いいだろ、隠す方が変に気にしちゃうじゃん!」 何やら揉め合っている。 話したくないことなら無理して聞こうとは思わなかったんだけど…。 「それ俺が聞いてもいいこと?」 「おう。聞いてくれ」 「分かった」 合コンって言ったかな。 それが何で俺には言いにくかったんだ? 分からないけれど、折角友人が話し始めてくれたので俺はその話を聞くことにした。 何だか半ば無理やり話させてしまったみたいで内心申し訳ない気もするが。 「で、今日やる予定なんだけどさ、元々来る予定だった奴が急に来られなくなっちゃって」 「それで代わりに参加してくれる奴を急いで探さなきゃなって話してたとこ」 「そうなんだ。話してくれてありがと」 「おう。だからホントに大したことじゃないんだ」 からりと笑う彼らは本当に心配ないからと、俺を安心させるように言った。 だけどやっぱり解せない。 何でこんなに気を遣われてるんだ、俺? というか、別に行くつもりはないけど…。 「ちなみになんだけど、それって俺が参加しちゃまずいの?」 「「「ダメだっ!」」」 「うわっ」 俺が質問すると三人ともビクリと肩を震わせ、声を合わせてそう叫んだ。核心を突いた質問に驚いたのだろうが、その大きな声に俺も驚いてしまった。 俺に話し辛かったということはまぁ、俺が行くとまずいことでもあるんだろうなとは思ったけどさ…。まさかここまで過剰に拒否されるとは。 そんなに俺が行くと駄目なのかな。 別にめちゃくちゃ行きたい訳ではないのに、そんな反応されちゃうとちょっと傷付く…。 「あぁぁ違うよ?!澤が駄目なんじゃなくて!!」 またしゅんと項垂れてしまった俺を見かねて友人が慌てて続ける。 「ほらその、お前には藤倉くんがいるじゃん?」 「ん?何でそこで藤倉?」 「いや、だってお前らいつも一緒だしさ…」 「お前を合コンに誘ったなんて知られたら…想像するのもちょっと」 「俺らが消され…いや、何でもない」 え、何でそんなに怖がってるんだ。 分からない。俺が合コンに行くと、藤倉が知ったらまずいってこと? 俺が合コンに行ったら。 それを藤倉が知ったら。 一体どうなるだろう。 「藤倉に知られると何かまずいのか?………あぁ、そっか!」 もし仮に俺が合コンに参加するってなると藤倉までついてきてしまうのでは?ってことを心配してるのかな。 確かにあいつが来ちゃったらもう合コンも何もないくらいに全部持ってっちゃうだろうし、それは嫌だろうなぁ。 それで俺にこの話題を振るのも憚られたという訳かな。 大体そんなことを話してみると、友人らは少し間を置いたものの、やがてこくこくと大袈裟なまでに頷いてみせた。 そうして友人の一人が、何かに怯えるようにひっそりと、声のトーンを落として俺に耳打ちする。 「澤、頼む。この話は聞かなかったことにしてくれないか」 「いいけど、ホントに大丈夫?」 「おう!…多分」 多分。 実は結構困ってるんじゃなかろうかと心配にはなるが、これ以上俺がでしゃばってもまた気を遣わせてしまうだろうと思い、俺は素直に教室へと帰ったのだった。
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