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血被りの悪魔。
何故、俺がこんなにも声を荒げているのかといえば……。
「尚斗も……知ってたの?」
「ああ。このアパートに住んでいれば、嫌でも噂は聞こえてくるさ」
──辻間 弥生。
一◯二号室に住む彼女は、周囲から『血被りの悪魔』と呼ばれ恐れられている、いわゆる“スケバン”というやつだ。
昨年までS市内の公立高校『新暮高等学校』に通っており、現役女子高生ながら街のチンピラをシメただの、怖いお兄さんたちと喧嘩しただのという都市伝説は、この辺りでは非常に有名で──同じアパートに彼女が住んでいると知ったときは、背筋の凍る思いだったことを告白しよう。
事実、俺も一度、辻間 弥生の姿を遠巻きに目にしたことがあるが、彼女が『血被りの悪魔』と呼ばれる所以でもある真っ赤に染まった髪、そしてその鋭い目つきは、数々の都市伝説もあながち嘘でないと言える迫力があった。
「……で、でも、うわさを信じちゃいけないって、山本リンダも言ってたし!」
「じゃあ勝手にしろよ。俺は関わらないからな」
こんなクソみたいな人間だって、命は惜しいもんでね。
……たしかに近頃は辻間の目立った噂もあまり聞かないし、正直、最近越してきたばかりのくろろにまで話が行っているというのも驚くほどの落ち着きぶり(と言っていいのか?)ではあるのだが──それでも相手は悪魔である。バスケやらなぁ〜い? なんて、バカバカしい。無謀だ。
しかし、くろろと数週間付き合ってきて、この女が一度こうだと決めたらもうどうにもとまらない、というのは俺だってよ〜く知っている。
「あーあー、そう。そうなんだ……はいはいはい」
なんだ、お前は? 世界初男性バーチャルYouTuberか?
「つまり尚斗は、女の子相手にビビってるってワケねえ」
やっすい挑発だな、おい。
「……いいわよ。私、一人で行く。その代わり骨は拾ってよね」
「おいっ、縁起でもないこと言うなよ!」
あの女と一戦交えるとなれば、なまじ冗談とも言えないんだからな、それ。
「じゃーあ?」
「……わかったよ、行くっつーの!」
俺はどうやら、この短期間でくろろに従順なペットとして飼い慣らされちまったらしい。同じ負け犬だと思っていたんだけどな……。トホホ。
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