チーム結成!

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チーム結成!

「……いい加減にしろよ、お前ら」  週明けの月曜日、俺たちは再び……今度は正々堂々と、辻間 弥生を訪ねて彼女の部屋へ赴いた。 「今日、おばあさんは?」 「うるせえな。裁縫教室だよ」  中に通され、この前と同じく水道水をご馳走になる。 「…………昨日、野球の帰りに体育館でポスター見かけたけどよ、マジであんなの出んのか?」 「あっ、興味出てきた?」 「いや全然。お前ら、トシいくつだっけ?」 「……私が二十一で、尚斗が三だけど」 「はあ……元気だねえ」  む。なんだコイツ、ムカつくな。  今日は女同士、話は全てくろろに任せようと思っていたが、さすがにここはビシッと言ってやるべきだろう。 「お前が元気なさすぎるんだよ、十九のガキが。なんだ、いままであれだけ暴れておいて……燃え尽き症候群か?」 「……まあ……そんなトコじゃねーの……」  あらら。こりゃ、相当に冷めてやがるな。抜け殻みたいな状態だ。  キレて襲いかかってくるんじゃないか……と、内心ビクビクしていた俺が恥ずかしい。 「最近は喧嘩の噂も聞かないが……」 「あんなもん、高校出てまでやってたらアホだろ」  不良のくせにそういう分別はついているのか。 「だけどいまさら……なにか他のこと、はじめる気にもなれねーしな。夢中になれるモンも見つかんねえ」 「結婚とか、女性としての幸せを見つけてみるのも一つの手じゃない?」 「あれだけ男と殴り合ってきて、コロッといい嫁さんになれりゃあ苦労しねえよ。あたしには無理だ」  正直、顔だけならめちゃくちゃ可愛いんだけどなあ。 「…………うん。いまの話を聞いていてわかった。やっぱり、弥生ちゃん、私たちと同類だよ」  くろろがわざとらしくポンと手を叩いた。 「──ね、彼氏いたことないでしょ」 「はあっ!?」  唐突なセクハラ発言に辻間の声が裏返る。  気持ちはわかるぞ。俺にもまったく意味が理解できなかったからな。 「なんか、寂しい奴なのよ。すっかり枯れちゃってることもそうだけど……覇気がないのよね」 「それと彼……氏とかの、なにが関係あんだよ」 「女はね、男の趣味に影響されるものなの。彼氏が好きだって言えば車も詳しくなるし、サッカーさえも好きになるのよ。でも弥生ちゃん、それがないでしょ?」 「……そ、そういう経験があるのか? くろろは」  思わず口を挟んでしまう。 「ううん。スラムダンクを見ていたら、そう言ってたから」 「なんでアニメでバスケの予習してるんだよ……」  まあ、なぜか安心している自分がいるのだが。 「──私はね。こう、コスプレとかやってる奴だから、彼氏なんてできたことないし、要らないワケ」 「だったらてめえも……!」 「ほら、って」 「あっ」 「だから、弥生ちゃんも“イタイ側”の人間なんだって! さっさと認めなさい」 「…………」  すごいな、あの悪魔が口籠ったぞ。 「私とあなた、そして……特に、この尚斗はね、とびっきりイタイ奴なの。学習ノートに転生ハーレム物のラノベ書いて、小説だ〜って言い張ってんのよ」  おい、ぶっ飛ばすぞお前。 「成人しても子供みたいな夢を追い続ける私たち……まだまだ若いのに夢も希望もやりたいことも見つけられない弥生ちゃん……。種類は違えど、同じ“負け犬”なのよ」  同意するが。 「だから負け犬同士、傷を舐め合いましょう? ボールに怨み、辛みをぶつけるの。それが青春よ!」  うーん、嫌な青春だな、それ……。 「いい返事を期待してるわよ」  くろろはそう言うとコップの水を一気に飲み干し、そのまま部屋を後にした。俺もそれに続く。  まだまだ今週も始まったばかりだというのに、なんだかどっと疲れたな……。  俺が自室で一人、テレビを見ていると、くろろが部屋を訪ねてきた。  チャイムは鳴らさずノックを三回──これが合図だ。 「どうした?」 「……ビッグニュース。悲報か朗報かは自分で判断して」 「辻間絡みの話か?」 「まあ、近いわね……。実は、ママさんバスケの大会に、アマチュアリーグの選手が参加するらしいのよ」 「はあ? そんなガチな奴が出てくるのかよ」 「でもその選手、あんまりいい噂を聞かなくてね……平たく言えば“大会荒らし”が目的みたい」  へえ、そんな暇人もいるんだな。だったら練習でもしていたらどうだと言いたくなるが。 「……で、ここからが本題なんだけど。なんと、そのアマチュアに市民大会の話を持ちかけたのが──高校時代、弥生ちゃんのライバルだった他校の女ヤンキーと、その彼氏だって言うのよ!」 「えっ、じゃあ……その三人のチームで大会に?」 「そう。面白くなってきそうでしょ」 「面白いって……」  ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。  俺とくろろの会話を遮るように、チャイムが鳴り響く。そんなに連打しなくても聞こえてるってえの。 「……きたわね」  扉を開けると、そこには想像通りの女が、予想以上の“鬼の形相”で待ち構えていた。 「──気が変わった。さっさと練習、はじめるぞ」
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