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ミーティングは喫茶店で。
──翌日。
俺たちは最寄りの喫茶店にて、バスケ大会に向けたミーティングを開始することとなった。
「……なんで喫茶店? ファミレスとかの方が良くない?」
「奢ってもらう立場で言うことかよ」
「なんでもいいけど、さっさとはじめようぜ」
窓際の小さなテーブル席にくろろと辻間が並んで座り、その正面に俺……という構図。
周りのサラリーマン連中やご老人からは“美女二人を連れまわすモテ男”に見えるんだろうな。正確には“生意気な女どもに振り回される悲劇のヒーロー”なんだがね。
「ミーティングって言ってもなあ……くろろ、お前、ただ単に人の金でコーヒーを飲みたかっただけだろ?」
「うーん、半分正解かな」
「残り半分は?」
「なんか雰囲気出るでしょ、こうやって集まって“ミーティング!”って」
「結局、まともに話し合う気はゼロかよ……」
俺とくろろが言い争っていると、それをいままで黙って聞いていた辻間が突然、メニューを手に取りテーブルに叩きつけやがった。
「あのなあ……あたしはお前らの夫婦漫才を見に来たワケじゃねーんだぞ? 真面目にやらねえなら帰るからな」
ガン、ガンと何度も角を打ちつける。怖い怖い。
「真面目に、ねえ……」
ヤンキー崩れがそれを言うか、普通?
なんだか可笑しくなって、つい声が漏れてしまう。
「ああ? なんだてめえ、バカにしてんのか」
ここ数日で気が付いたのだが、この辻間 弥生という女は意外に愛嬌があるのかもしれない。ちょっとからかってやると、面白い反応を返してくれるのだ。
「それにしても……なんだって急に、やる気になってくれたんだよ?」
まあ、十中八九、例のライバルヤンキーのおかげ(?)だろうな……とは思うのだが。
「野薔薇 こいる。アイツが大会に出るって聞いてな」
「……弥生ちゃんのライバルだった子?」
「周りは勝手にそう言ってたけどな。あたしはあんな雑魚に興味ねーよ」
そう言いながら、ぷいっと横を向いて頬杖をつく。
「アイツは……それこそ、男の趣味でヤンキーやってるようなハンパな奴だ。恋愛体質で、男に言われりゃ酒とか煙草とか……アンパンでもなんでもやる。信念ってのがねえんだよ」
ヤンキーにも色々とあるんだな、派閥が。
「──で、いまだに市民大会にガチの選手を連れてきて嫌がらせ……とかやってんだろ? 救えねえバカだろうが」
「まあ……それは正論だな」
「だから、ここで張っ倒して格の違いを思い知らせてやるんだよ。あたしが大人しくしていたら調子に乗りやがって……」
その両目には熱意と殺意が入り混じるギラギラとした炎が燃えている。
この女──マジだ。ガチガチのガチなんだな。
「つ、辻間……さん、はさ」
実際、こうやって面と向かって話をすると、こいつのことをなんと呼んでいいのか悩んでしまう。思春期の中学生か、と笑うなら笑え。
「……なんだよそれ。別に下の名前で呼べばいいじゃねーか」
え? え? それでいいのかよ。こっちがこんなに気を使っていたのに。
「や、やや、弥生はサァ……」
「お前、気持ち悪いな。中学生のガキかよ」
図星を突かれて赤面する。お願い、それは言わないで!
「……う、うるせえよ。ガキはお前だろうが! あーあ、本当は今日だってバーがよかったのに、未成年がいるからなあー!」
「うわっ、大人げねえ」
「……弥生ちゃん。成人しても、こういう大人にだけはなっちゃダメよ……」
目の前の女子二人が俺を指さす。ゴミ屑を見るような視線が痛い。
「……で? あたしがなんだって?」
「いや……バスケの経験はあるのかな、って」
「学校の授業でやったくらいだな」
「あっ、体育の授業だけはウッキウキで参加するタイプのヤンキーか、お前……」
「てめえ! ちょいちょいあたしのこと煽ってんだろ!」
──こうして、俺とくろろと、そして弥生のミーティング(仮)は、ほとんど実のないままでお開きとなったのであった……。
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