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なんの秋?
「秋といえば……」
木造アパート、織夏コーポの二◯五号室。別名『秘密基地』と呼ばれる俺の自室に今日も今日とてやってきたくろろが、開口一番、そう呟いた。
「食欲の秋、読書の秋、芸術の秋……なんて風によく言われるじゃない? でもやっぱり──」
「……コスプレの秋、なんて言うなよ、間違っても」
事前に釘を刺しておく。この前みたいな羞恥プレイは、さすがにしばらく勘弁してほしい。
「言わないわよ。バカじゃないの?」
哀れむような、冷たい視線が痛い。なんだその目は!
「秋といったら、スポーツの秋! コレよ、コレ」
「あ、ああ……スポーツの」
存外まともであったくろろの思考、発言にいささか肩透かしを食らいつつ、それはそれでまた“なにか面倒なことになるんだろうな”というのは──想像に難しくなかった。
「来月の三日、市民体育館でバスケの大会があるらしくてね」
「それに参加するって?」
「もちろん。だって青春イコール、バスケでしょ?」
知らん。初耳だ。
「……でも意外だな。お前、あんまり運動系とか好きそうじゃないけど」
「私、こう見えても中学の時はバスケ部だったの。二年の時に辞めちゃったけどね」
それも初耳。“十二へぇ”くらいは進呈してやろう。
「ふーん。まあ、いいと思うぜ。バスケなんて高校以来だし活躍のほどは保証しかねるけどさ……」
「あ、うん。大丈夫。最初から期待してないもん」
あら酷い。
「大会、って言っても要はママさんバスケだしね。若い男ってだけでアドバンテージよ」
「それもそうか。そんなガチな感じでも無いだろうし」
「──と、ここからが問題なんだけどね」
くろろが顔をぐいっとこちらに近付けてくる。
「誰とチームを組むか、っていうところなのよ」
「ああ。たしかに……さすがに二人じゃあな」
「幸運にも今回はスリーバイスリー、三対三でやるみたいだから、あと一人いればオッケーなんだけど……」
と言っても、その一人がなあ。
「私、心当たりがある……って言っていいのかな? 目星をつけている子はいるんだけどね」
「くろろのコスプレ仲間か?」
「ちがうわよ。なんでそうなるのよ」
「なんかキセキっぽいのとか、いそうじゃないか」
俺たち、そういう世代だし。
「いやいや。そうじゃなくて、どうせやるならほら、勝ちに行きたいワケ」
「まあ……元・バスケ部のプライドみたいなものがあるんだろうな」
「そこでね、超〜強力な助っ人に手を貸してもらおうと思うんだけど……」
「けど?」
「その助っ人が……その、一◯二号の……」
言い終わるより先に、俺の両手がくろろの肩を掴んでいた。
「それだけはやめておけっ! “アイツ”だけは、絶対に──」
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