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優しくなんかない(吉宗×伊織)
なんだか最近、よく言われる言葉がある。
――伊織君って優しいよね。
これである。俺としては自分が優しいだなんて一度たりとも思ったことがないものだから、これを聞くたびに「はぁ、そうか?」なんて間の抜けた返事をしては、隣からポカリと控えめな力加減で顔の良く似た双子の妹から叩かれている始末だ。確かに表情ともども酷い反応をしている自覚はあるが、何も叩かなくてもいいだろうに。
とにかく、俺は優しいつもりなんて更々ないのだが、最近になって何故にこんな風に言われるようになったのだろうか。思い当たる節がどうにもなくて首をかしげていると、隣から「なにそんな百面相してるの」と呆れを滲ませた声がかかった。振り向かずとも声と気配でわかる。俺の親友である男だ。
「いやさ、最近妙に俺って優しいだとか言われんだよな。俺、優しくなくない?」
「そうか?伊織は優しいと思うけど」
男――吉宗は俺の隣に腰を下ろすと、そう口にした。お人好しで人を良く見ている男だから、きっと俺のことを適切に評価してくれる。そう踏んでの質問だったのだが、買い被りすぎだっただろうか。
「ただ、誰にでも優しいわけじゃないだけでさ。伊織はなんていうか、自分の大事なものを大事にしようとするだろ?だから、他人から見たらそれが優しい男に見えてるんじゃないかな」
少なくとも、俺には優しいじゃん。
吉宗はそう言って俺の顔を覗き込み、緩く笑みを浮かべた。
ふむ、なるほど。どうやら買い被りではなかったようだ。俺のことを適切に分析、評価している。少なくとも俺は赤の他人に心を
砕いたりしないし、必要とあれば大事なものとそうじゃないものを天秤にかけたりもする。正直大事なもの以外はどうでもいいし、大事とは思わないものも「わざわざ見捨てるのもなんだかなぁ」なんて思うから見捨てないだけだ。むしろ、こういう性格は優しいとは程遠かろう。
「だよなぁ。やっぱり、吉宗は俺のことよく見てる」
「結局俺は伊織のこと、優しいと思ってるんだけど」
「まぁ、吉宗のことは好きだし大事だから。優しいって言うか甘やかしたいんだよ」
そう、俺は優しくない。手を貸すのも、尽くすのも、目の前の男のことが好きだから以外の何物でもないエゴイストなのだから。
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