望まぬ身体

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 職場の同僚で男友達のあいつは、とにかく頭が切れる。だが、控えめすぎて出世には縁遠い。本人もそれを望んでいる風もない。西洋の言葉で記された書物や美しい音楽が好きなのだという。  私が職場で話が合うのはあいつしかいない。女たちは話題が低能過ぎる。男たちは、その女たちのようには手なずけられない、かわいげのない私を敬遠しているのがよくわかる。しかし、私もそんなことは気にしない。働いた分だけ給料がもらえて、あいつがいれば、それでよかった。  しかし、あいつには一つだけ、どうしても認めたくない欠点があった。いつも“よりによってそれか”というような女ばかり、私の所に連れてくる。  「……どうかな?」  「好きなんでしょう? 応援してるよ」  そして、いつも裏切られて落ち込んでいる。  ある日、今まで連れてきた中でも最悪な女を連れて来た。あいつはまったく気づくことなく、その女から奪われ続けるのが明白だった。それでも、あいつが好きならばそれでいいと思った。 次の日に、職場で会ってあいつは私に言った。彼女と結婚する、と。  私は結婚式に呼ばれたが出席しなかった。おそらく誰もが想像しているような理由ではなかった。しかしながら、本人にも、私とあいつとが仲が良かったことを知る周囲の人間にも、そう思われているだろうということだけが、私には口惜しかった。  その晩、夢を見た。昔のヨーロッパの修道士の格好をした若い男が2人、チェスみたいなゲームをしていた。気づくと時々、片方の男は駒や盤ではなくて相手の男のことを、肘をついて熱心に見つめていた。  ――いくばくかの時が経ったようであった。男は独りだけになっていた。顔色が悪く、苛立ちを隠せない眼だけが異様にぎらぎらしていた。  「俺だったら、絶対にお前を苦しめたり、裏切ったりはしなかった……」  涙の熱さで私は目覚めた。  十代のはじめに胸が膨らみ出し、その時に私は泣いた。私の望んでいる身体ではないと思った。――長いこと忘れていた、その時と同じ涙だと思った。
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