夏の日

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 話を戻すと、この武下先生の「現代文」の授業は、私にとって目が覚めるようなものだったのだ。まず最初に、芥川龍之介の「羅生門」。先生は生徒に意図の分かりにくい質問をする。「本当の羅生門は階段が七段あったけど、芥川は五段と書いてる。何でだろうね?」。この「答え」はとうとう出なかった。しかし何より面白かったのは、「伏線」について教えられたこと。私は読書は子供の頃から好きだったが、そういう技法的なことなど考えたこともなかった。何気ないようでいて、芥川がいかに綿密に計算してあの短編の一つ一つの文章を組立てているのかを逐一教えられて、本当に背筋がぞくぞくした。「伏線」ということを知ったことで、ぐんと読書の幅が広がった。いや、初めて、「文学」というものに目を開かされたのかもしれない。  たまたま文芸部に入っていた私は、それまでの漫画の延長のようなお話ではなく、文学を目指したいと思うようになっていた。そして、武下先生と、芥川と、同時にファンになったのだった。
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