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「く、黒川さん、あぶない! 逃げて!」
雪子はとっさに叫んだが、黒川はノーガードだった。
まず、その華奢な体にベッドのシーツが覆いかぶさり、そのあと、本やら食器やら電化製品やらがぶつかり、仕上げにボールペンやら包丁やらの先端がぐさぐさとその体に突き立てられた。当然、普通の人間なら半端無いダメージを受ける――はずだ。
だが、黒川はシーツを被ったまま、平然と直立不動の姿勢のままでいた。包丁などの先端も、その体に刺さらずに寸前で止まっているようだった。当然、流血もしていない。いったいこれは……?
「なるほど、ポルターガイストかあ。実にいい感じの悪霊に成長していますね」
黒川は先ほどと同様、緊張感のかけらもないのんきな声で言うと、シーツの下で腕を水平に払った。たちまち、シーツは彼の身からはがれ、その姿が再びあらわになった。
だが、そこに現れたのは、先ほどまでこの場にいたはずの陰気で冴えない風貌の青年ではなかった。長身細身の二十歳前後くらいの男で、黒い髪は長く、腰の辺りまで流れている。顔立ちはひときわ端正で、切れ長の瞳の、凛とした繊細な雰囲気があった。肌は石膏のように白くなめらかだ。
また、その美貌の男には常人ならざる奇妙な特徴もあった。二つの瞳は赤く光っており、額の両端には謎の突起が二本あった。あれはもしかして……ツノ? というか、この人っていったい?
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