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ただ、いざ彼の部屋の前まで来ると、妙に気恥ずかしくなり、チャイムを押すのをためらってしまった。
黒川とは久しぶりに顔を会わせるのだ。前は形だけとはいえ結婚して、おまけに好きだと言われてしまった。思い出すと、ますます恥ずかしさが強まって、顔が熱くなってしまう。どうしよう。別に無理して会う必要ない気もしてくる……。
と、そんなふうにうじうじしていると、突如、その扉が勝手に開いた。
「おや、雪子さん。どうしたんですか、こんなところで?」
中から出てきたのは、当然、黒川だ。いつもと同じジャージ姿だ。これからどこかに出かけるところだろうか。
「い、いや、あのう……」
雪子は突然の黒川の出現に面食らったが、
「これ、読んだんですけど!」
携えていた月刊サバト最新号を彼の眼前に突きつけ、ちゃんと用件を言うことができた。
「私、これ読んで、ちょっとびっくりして――」
「ああ、そうですよね。僕の代わりに入った新連載、八ページもあるんですよね。僕はウェブ連載で二ページに減らされたのに……」
「いや、そこじゃなくて! 黒川さんの漫画、載ってるじゃないですか、読みきりで三十二ページも」
「ああ、それは代原ですね」
「ダイゲン?」
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