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「十一月号は、誰か連載を落とした作家さんがいて、その空いたページ数を埋めるために、何か適当な漫画を載せる必要があったんですよ。それが代原。そして、それにたまたま、僕が昔描いた読みきり漫画が選ばれたんです。五年前くらいに描いたんですけど、掲載直前になって、漫画の一部シーンと酷似した一家惨殺事件が発生して、不謹慎だということで掲載を見送られてお蔵入りしていたんですよ」
「へえ、そんなことがあったんですか」
そういう話、ドラマやアニメなどでもたまに聞くが、作品には罪がないのに、かわいそうな話だ。
「まあ、僕としては原稿料はきっちりいただきましたし、あまり気の進まない漫画だったので、未掲載に終わってても別によかったんですけどね。設定の七割ぐらいを当時の担当さんが考えたんですよ、あれ」
「え、七割も?」
「そうですよ。当時の担当さん、超押しが強くて、気がついたらそんな感じになってて。だからもう、見るに耐えない、凡庸でつまらない漫画に――」
「いや、私、この漫画好きですけど?」
「え」
「確かに、ちょっと設定はありがちかもしれませんが、つまらないってことはないですよ。ちゃんと面白いですよ、これ」
雪子は月刊サバトを開き、超五感探偵なんちゃらのページのところを黒川に見せ、「面白かったですよ」と、もう一度言った。大事なことなので。
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