5 黒川さんの里帰り

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「お、面白かった? 僕の漫画が? そ、そんな……」  黒川は雪子の言葉に震撼しているようだった。 「ほ、本当に? 本当に僕の漫画を面白いと思ってくれたんですか?」 「はい」 「本当に本当に? やさしい嘘でも悪意のある嘘でもなくて本当に?」 「本当ですってば!」 「お、おおおおお……」  と、そこで黒川は強い感動に体を震わせたようだった。その目からはぽろぽろ涙がこぼれてくる。 「あ、ありがとうございます! 僕、読者にこんなこと面と向かって言われるの、生まれて初めてです……」 「何も泣かなくても」  雪子はさすがに笑ってしまった。いくらなんでも反応が大げさすぎやしないか。自分では特に思い入れのない作品だったらしいのに。 「実はこの漫画、諏訪さんも掲載直前まで存在を知らなかったらしいんですけど、読んでもらったらけっこう気に入っていただいて。アンケートの順位がよかったら連載も考えるって言われました」 「え、すごいじゃないですか! 本誌に返り咲けるチャンスですよ!」 「……まあ、こういうことは、読みきりを掲載するたびに作家さんに言われてることなんでしょうけどね」  黒川は諏訪の言葉にそこまで期待していないような感じだった。プロの漫画家として、連載を獲得するのは簡単なことではないと知っているのだろう。  ただ、やはり雪子としては、一回だけの読みきりだけで終わるのはもったいない気がした。
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