136人が本棚に入れています
本棚に追加
「きゃあっ」
とたんに、悲鳴を上げ、震えおののく雪子であった。それは昨日聞いた声と同じだった。そう、バイク事故で死んだはずの男の声――。
「雪子、どうして俺を無視するんだ? 俺たちはこんなにも愛しあってるのに――」
「や、やめてっ!」
恐怖と嫌悪感に耐え切れず、雪子はただちに近くにあったクッションをスマホの上にかぶせ、音を遮断した。あんな男の声は一秒たりとも聞いていたくなかった。悪霊のものならなおのことだ。
だが、それで男の亡霊の気配が消えたわけではなかった。
次の瞬間――、
「雪子、なぜそんなにおびえてるんだい?」
スマホとは違う場所から声がした。はっとして、声のしたほうを見ると、そこは窓際だった。そう、カーテンの開け放たれた窓のガラスの向こう、ベランダに一人の男が立っている。黒い皮のライダースーツを着て、ヘルメットを被った男だ……。
「な、なんで――」
もはや恐怖で悲鳴すら上げられない。体の芯から怖気が走るようだった。
「雪子。ダメじゃないか、鍵なんかかけちゃ」
男がそう言ったとたん、窓の鍵はひとりでに動き、開錠された。直後、窓は同様に勝手に開かれ、男はゆっくりと室内に入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!