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「ずっと会えなくてさみしかっただろう? もう大丈夫だよ」
「こ、来ないで!」
雪子はとっさにスマホの上にかぶせてあったクッションをつかみ、男に投げた。だが、それは男の体をすっとすり抜けてしまった。実体がない存在のようだった。
「雪子、さあこっちにおいで。しばらく会えなかったぶん、たくさんかわいがってあげるから……」
男はそのままゆっくりと雪子のほうに近づいてくる。
「い、いや――」
どうしたらいいんだろう。怖い。雪子はさらに震え上がるばかりだった。
だが、そこで、近くに転がっているスマホが目に飛び込んできた。
そうだ、今度こそ、助けを呼べるかも――。
あわててそれを手に取り、発信履歴からその番号、そう、黒川に教えてもらった電話番号に電話した。
今度こそ、つながって! 誰か電話に出て! 藁をもつかむ思いだった。
呼び出し音は一回しか鳴らなかった。電話はすぐにつながった。
「はいはーい。ちょうど今、そちらに向かっているところですよー」
と、スマホから聞こえたのは、聞き覚えのある男の声だった。
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