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「ところで赤城さん、さっきから騒いでいるあの霊、実は元彼とかですか?」
体勢を立て直しながら、ふと黒川が尋ねて来た。「そんなわけないでしょ!」雪子は即答した。
「あいつは、ずっと私のことつけまわしていた、最低のストーカー男なんです!」
「へえ。つまり死んでなおもあなたのもとにやってきたわけですね。たいした執着心だ。すばらしい」
黒川はふと、にやりと笑い、舌なめずりした。まるで何かごちそうを目の前にした野良猫のように。
「では、あの彼に何か伝えたいとかありますか?」
「ないです! 早く消えて欲しいです!」
「……そうですか。なら、遠慮はいらないですね。このまま、おいしくいただいちゃいましょう」
黒川はそう言うと、直後、雪子の体を床に置いた。また羽のように軽やかながらも、無駄のない素早い所作だった。そして、少し身を低くすると、そのまま一気に目の前の悪霊の懐に踏み込み――なんと、その首を片手でわしづかみにし、持ち上げた。
「え、なんで……」
雪子はまた驚いた。黒川のいきなりの反撃にもびっくりしたが、そもそもあれはあくまで霊で、実体の無いはずの存在なのに、どうして手づかみにできるんだろう。実際、さっきクッション投げてもすり抜けたのに。
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