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2020.9.18-19 鬼怒川温泉(栃木)⑯
さて。
温泉も入ってのんびりして、お土産も一通り見て、美味しい蕎麦と温泉饅頭を食べて、鬼怒川をぼーっと眺めて、都会の喧騒から離れた空気を存分に堪能しましたし、時間も時間だしそろそろ。
……帰ると思いましたか?
帰ると思いましたよね?
最後の最後に鬼怒川を見納めてさすがにそろそろ帰ると思いましたよね?
――帰りません!(帰りなさい)
乗る予定の特急列車の時刻は既に迫っていたのですが「まだいける! 私ならまだもう1イベント起こせる!」と往生際が悪いことこの上無しの気概で駅ナカのカフェに入りました。
そこは木目調の家具で統一され、ナチュラルテイストの落ち着いた雰囲気のカフェでした。
注文しにレジに行くと、優しい笑顔の店員さんが迎えてくれます。
無類のコーヒー好きの私なので、すかさずホットコーヒーを頼みました(雨で結構冷えたので)
そして無類の甘いもの好きの私なので、すかさずフルーツサンドも追加しました(すかさずに意味はありません)
レジ前のショーケースには手作りと思われるサンドイッチが数種類並んでいて、どれも美味しそうで食べ応えもありそうでした。
それからレジでお会計をしてコーヒーとフルーツサンドを受け取ると、窓際のカウンター席に座ります。
降雨に染まる鬼怒川温泉の町を見ながらコーヒーを一口。
芳ばしい香りと優しい熱がゆっくりと広がっていきます。
雨は降られると苦手ですが、安全地帯から眺める分には乙なものですね。
ふと、カウンターの上にノートが置いてあるのが目につきました。
お客さんが自由なことを書いていいみたいです。
そんなの書かないわけにはいくまい。
謎の使命感に駆られ、私はボールペンを取り出しました。
ここで即興短編小説など書ければ良かったのですが、時間があまりに無く、頭ももうぼんやりモードだったので無難に署名だけしてきました。
もしどなたかがこのカフェに行くことがあれば、その際にはぜひ『春哉』という文字を探してみてください。
そうこうしてる間に時間です。
てかヤバい。あと3分しかない。
駅ナカのカフェだからと油断しました。
慌てて片付けをして店を飛び出します。
店員さんには「ごちそうさまでした」という言葉を忘れずに。
ホームに着いた時にはすでに特急列車は止まっていました。
これに乗れば、約2時間で東京です。
もっと帰りたくない気持ちになるかな、と昨日は思ってました。
もちろん今日も温泉にゆっくり浸かりたいという気持ちはありますが、私が特急列車へ乗り込むのに抵抗はほとんどありませんでした。
東京は東京で、私のやりたいことがある場所なんでしょう。
来たくなったらまた来ればいいしね。
好きな場所がまたひとつ増えました。
特急列車が動き出します。
ふかふかの座席に身を委ねて、あの時間の速い街へと運ばれていきます。
さっき食べ損ねたフルーツサンドと一緒に。
(フルーツごろごろしてて生クリームも甘すぎずめちゃくちゃ美味しかった)
2020.9.18-19 鬼怒川温泉:完
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