一人寝の寂しさ

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   花は真っ直ぐ花月の目を見た。 「花月。お父さんの性格は分かってるか?」  目を逸らさず小さく頷く。 「俺はいやなことはしない。相手が哲平おじさんだとしてもだ。仕事をしたくなきゃしない。お父さんはとても我がままなんだ」  それにも頷いた。 「だから誰かのせいでどうこうなるなんてこと、俺にはあり得ない。これは自分の責任だよ。自分の管理を怠った。お前たち家族を裏切ったようなもんだ」 「そんなことないよ!」 「そうか? 花月にそんな不安を与えたんだ、それは裏切りと変わらないよ。逆にお前たちがお母さんを泣かせるようなことをすれば、それも家族に対する裏切りなんだ。分かるか?」  真理恵は自分が泣きそうになっていた。花の苛烈さはよく分かっている。いつも真実を言う。だから『裏切り』だと本気で言っているのだろう。けれど花はいつだって誰かを守るために戦う。今回はきっとその対象は哲平だ。それさえ、自己責任だと言い切る花。 「俺は誰かのせいにするような卑怯な真似をする男にはなりたくない。花月、お前にも言いたいんだ。誰のせいか、大事なのはそこじゃない。問題を解決するにはどうしたらいいか。それを考える男になってほしい」  花月は今度はしっかりと頷いた。花はにっこり笑った。  2本目の点滴で、気がつくと花音が取り替えている看護師を睨んでいる。それを見る花の視線を感じた花月が花音の手を握った。  看護師が出て行くと花音は父の右手を握った。点滴の針が刺さっているのは左手だ。 「これ、何回やるの? お家に帰って来るまでずっと?」 「今日と明日は夜以外はやると思うよ。眠る時には外してもらえる。花音、大丈夫だ。ちゃんとお父さんは帰るから」 「帰ったら花音と寝てくれる?」  花はすっかり嬉しくなってしまった。 「もちろんだよ! そうか、お父さんと一緒に寝てくれるのか」 「僕も! 反対側に寝る!」  そう言って母を振り返った。 「お母さん、ごめんね。でもどうしてもお父さんと寝たいんだ」 「いいよ。花月と花音にヤキモチなんか妬かないよ。じゃね、お父さんが帰ってきたら4人で同じ部屋に寝ようか」 「うん!」 「うん!」  同時に同じ笑顔を浮かべる2人。 (双子って不思議だなぁ)  我が子ながら、時折見せる連携プレーに驚くことが多い。そして、互いの感情をよく読んでいる。 (マリエ…… 子どもたちがいるから寂しくないよな?)  だめだと言われた携帯を開く。たくさんの画像を見る。家族の写真が圧倒的に多い。待ち受けは3人の笑顔。誰もがその待ち受けを見て驚く。 『意外と家庭的なんだな!』  そしてオフィスの連中が笑う。 『意外とってのは付けない方がいいよ。あまりその話突くと花がキレるぞ』  それでほとんどが黙り、僅かな残りが毒針を全身に突き立てられることになる。 (可愛いよなぁ……)  今見ているのは、結婚したての頃の真理恵の写真。そこには2人だけの思い出がだっぷりある。 (女ってこういうもんかな。可愛いマリエが子どもを産んでからしっかりお母さんになっちゃった)  自分だけの真理恵は自分の中だけに残っている。そんな思いに浸りながらあの頃の真理恵の笑顔の中でいつの間にか花は眠っていた。   (『ジェイと蓮の愛情物語』:その5「パニック」から)  
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