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第20回 『元ひみこさま』 その5
『これは、これは、お姫様。ようこそ。』
元ひみこさまが、丁重に出迎えました。
『どうぞ、中に。』
すると、うさぎさんが言いました。
かめさんは、一歩後ろに下がっております。
『いえ、ここでよろしいです。暗い方があなたにも、都合がよいでしょう。ひとつ、お伺いしたいのです。』
『なんでしょう。』
『実は、いま、月の王様と、お妃さま、つまり、あたくしの両親が、戦争をしております。』
『天界が騒がしいのは、存じております。』
『おそれいります。あの、なぜ、両親は、争うのでしょうか。なにか、ご存じでないでしょうか?』
『わたくしの身では、天界に直接は、口出しできませんが、しかし、姫さまのお立場を考えると、お気の毒です。じつは、おふたりには、以前から、地球を巡って、争いごとがございました。』
『なんと。』
『お妃さまは、地球の直接支配を進めるお考えでした。そのために、すでに、かなり昔に、巨大な宇宙船を地球に差し向けておりました。しかし、王様は、乗り気でなかったのです。地球人を大切にしたい、わけではなく、地球に価値があるとは、思わなかったからです。』
『はああ。そうした考え方は、まったく、変わらないです。どちらも、地球人の未来とか、権利など、眼中にはありません。あたくしは、それが、気に入りません。だから、とちらにも、付かないのです。』
『それで、反抗的なことばかり、したわけですね。』
『まあ、そうです。話を聞いてもくれない。』
『なるほど。まあ、わたくしに、似た境遇です。しかし、あなたさまは、月の姫様ですから。ご兄弟がない以上、あなたには、責任がある。多くの、月の住人に対して。』
『それは、わかります。しかし、そうではなくて、地球も、月も、生き物たちは、みな、平等に発展し、等しく、幸せになる権利があります。争いは、無くならないかもしれないが、減らすことはできるはずです。月が地球より、先に進んでいるからと言って、差別してはならないです。』
『なるほど。嫌われますね。』
『はい。しかし、何で、いまになって、戦争をするのでしょう。』
『お二人が、不老不死だからです。』
『なんと。』
『あなたは、不死化していますか。』
『たぶん。』
『かめさんは?』
『たぶん、してないです。だから、守らなくては。』
『かめさんは? どう、思いますか?』
急に話を振られて、かめさんは、びっくりしました。
『ぼくは、ひめさんの、つきがめ、ですから。うさぎさんの。いや、ひめさんのためになら、死んでも仕方ないです。無駄死には、いやですが。』
『ふうん。不憫な。』
『そうですか。』
『はい。この、まだ、新しい国でも、そうした考え方は、ありますが、しかし、自分の出世のために、親兄弟で争うことも多いのです。わたくしは、なんとか、それは、減らしたい。無くすことはできないけれど、減らすことはできるだろうと。わたくしが、かつて、首長を務めた国を、ひとつ、滅ぼした罪も、ありますから。』
『ならば、あたくしの立場は、分かっていただけるならば、両親を、和解させるご援助をくださいませ。』
うさぎさんは、一生懸命、訴えました。
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