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第3回 《北の英雄との出会い》その1
うさぎさんとかめさんは、いまで言うところの、スカンディナヴィア半島に降りてゆきました。
広い広い森と、たくさんの湖がある、ものすごく神秘的なところでした。
『この、おそろしく広い、寒そうな、人もあまり住んではいないようなところから、さっきのでっかい宇宙船が出発したなんて、ちょっと信じがたいなあ。』
かめさんが言いました。
『そうだね、かめさん、森の中から、あんなのが浮かび上がるとは思えないから、湖か、海か、そのあたりから出て来たんじゃないかなあ。』
『うん。たしかに。いったい、誰が乗っていたんだろう。』
『こういうときは、誰かに尋ねるのが良いのよ。人をさがしましょう。』
うさぎさんは、そう言うと、さっさと猛スピードで降りてゆきます。
こういうところが、いかにも、うさぎさん、いえ、かぐや様なのです。
さて、ちょうどこのころ、地上では、やっかいなことが持ちあがっておりました。
このあたりでも、名高い英雄の、生まれた時から、もうお年寄りだったという、老ワイナモイネンさんが、美しいアイノさんを得ることに失敗して嘆いていると、亡き母から、ポホヨラ地方の若い美人をお嫁さんにしたらいいと言われ、そのポホヨラで、ちょっとした、さわぎを起こしていたのです。
ワイナモイネンさまは、カレワラ地方の部族の英雄。それと対抗しているのが、ポホヨラ地方の部族です。
ワイナモイネンさんのお母様は、天地創造にかかわった、大気の乙女、イルマタルさま。
ワイナモイネンさまは、その息子さんですが、なかなかお腹から出て来ず、イルマタルさまは、英雄をお腹に抱いたままで苦しみ、長年かかって、ようやく生まれた子供でした。
だから、生まれた時には、もう、老人で、英雄でした。
この太古の英雄が生まれる前に、イルマタルさまの膝の上には、陸地と間違えた鴨さんが生んだ卵がありましたが、暖めすぎたのか、あまりに熱くなったので、イルマタルさんが足を揺すったため、卵はおっこちて、それで、そのかけらから、大地や空や太陽や月などが、生まれたというのです。
これが、北の国フィンランドの、叙事詩『カレワラ』が伝える、天地創造神話です。
うさぎさんとかめさんがやって来た時代は、日本もそうでしたが、まだ神話の世界と歴史の世界が入り混じっていた頃なのです。
さて、うさぎさんとかめさんは、やっと見つけた小さな村にいた人間を捕まえ、インタビューをして、そうした話を集めました。
イズモやアスカでもそうでしたが、しゃべる、ウサギさんと、かめさんにインタビューされた村人は、そりゃもう、びっくりでしたでしょうけれど、いまの人よりは、案外、気にしなかったかもしれませんね。
むかしの生き物たちは、人と同じ言葉を話したのだ、というお話しも、どこかで読んだような気がします。
アニメだったのかも。
『それはまた、すっごく昔のお話しね。でもね、ほんとうは、月も太陽も地球も、卵から生まれたわけじゃあない。でも、まあ、神話というものは、そうしたものよ。イズモで聞いたお話も、そうだったけれど、人間には、みんながなっとくできる、理屈と夢が必要だから。』
実は、この天地が、まんまるな卵から生まれたと言う神話は、アジア、オセアニア、南米、そうして北欧などに広がっているというのです。
日本にも、はるか昔には、そうした話が残っていたという記録もあったようですが、いまは、聞きませんね。
すると、かめさんが言いました。
『でも、うさぎさん、その女神様の生んだ英雄さんが、まだ生きているなんて、もし本当ならば、地球も、なかなか、すごいじゃない。』
『たしかに、そうよね。ここには、クローン技術とか、細胞復活再生技術とかが、あるのかもしれない。もしかしたら、月人みたいな、寿命が長い人間族がいるのかも。月と地球の関係の謎が、わかるかもね。でも、まだ、あの宇宙船のことが、ここまでの話には出てこなくて、全然わからないけど、まずは、その英雄さんに、会いに行きましょう。』
こうして、うさぎさんとかめさんは、はるか、ポホヨラの地に向かいました。
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さて、英雄ワイナモイネン(ワイナミョイネン)さんは、ちょっと、困った状況に陥っておりました。
彼は、ポホヨラまで、長い旅をして、ついに、美しいポホヨラの娘さん(なぜかお名前が、伝わらないのでわからないのです。)に、求婚しました。
すると、彼女には、そのためには、課題をこなさなければならないと言われたのでした。
『馬の毛を切り裂く』ことと『刃先のないナイフで、つなぎ目がわからないように卵を結び付けなさい』と。
ワイナモイネンさんは、それらを簡単にやってしまいました。
でも、乙女は、もうひとつ課題を出しました。
『糸をつむぐ棒から、斧を石に当てず、音もさせず、船を作りなさい。』
ワイナモイネンさんは、その仕事をずんずんと進めたのですが、なんと、運悪く、ケガをしてしまい、血が止まらなくなったのです。
そのままでは、結婚どころではなくなるので、止血の方法を求めて、英雄は、走り回るのでした。
救急車や病院は、まだなかったのです。
結果、最後には、実は、ある軟膏を塗ったことで、血が止まったのですが・・・・・。
でも、なんと、その軟膏は、うさぎさんが提供したものだったとは、誰も知らないことだったのです。
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※ 現在国際的に広がっている『カレワラ』は、フィンランドの偉大な学者様であります、リョンロット先生が採集して編集したもので、1849年に出版された『新カレワラ』によるものです。ここでは、本作の書き手のやましんが、無断で、別のお話を、でっちあげているのです。『カレワラ』のご紹介を兼ねているということで、お許しいただければ幸いです。日本語訳は、森本覚丹さまが、1936年に、英語バージョンから翻訳した、格調高い文語体訳のご本が出ておりました。これは、三種類発売され、豪華版、上製版、厚い表紙のない普及版、ですが、いずれもかなり大きな実に立派なご本なのです。その後、文庫本になったこともありました。戦後すぐの文庫本は、紙の質も荒っぽいですが、そもそも、ページによって、紙の切り方や大きさがまちまちだったりして、戦後日本の苦境が、じわっと判るような感じもあります。それから、世の中も経済成長した、1976年には、小泉保さま訳による読みやすい口語体で翻訳された文庫本がございました。きっちり装丁されたご本で、その差がはっきりと見受けられます。また、その他、更に読みやすく短縮された、物語版が複数ありますが、やましんの手元にあるのは、『カレワラタリナ』(坂井玲子さま著、昭和49年)『カレワラ物語』(キルスティ・マキネンさま著、荒牧和子さま訳 2005年)『カレワラ物語』(小泉保さま編著、2008年)また、一般的な研究書では『カレワラ神話と日本神話』(小泉保さま、1993年)などがございます。ここでも、参考にさせていただいております。
なお、音楽のお好きな方は、シベリウスさまの『ポヒョラの娘』を、是非どうぞ。すばらしい音楽ですので。
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つづく
どちらかの水族館のかめさん
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