第32回  『七つの着物の踊り』

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第32回  『七つの着物の踊り』

 舞台下の楽団が、不可思議な音楽を奏で始めました。  アスカの人々は、もちろん、未だかつて、聞いたことがない調べでありましたから、まず、仰天しました。  元ひみこさまは、舞台の中心に立ち、怪しげな踊りを始めたのです。  それは、音楽に合わせて、身体に纏う着物を、一枚ずつ脱ぎ捨ててゆく、究極の神に捧げる踊りでした。  (このお話の、元ひみこさまのモデルである、歴史上の、いわゆる邪馬台国の卑弥呼を、アマテラスオオミカミに比定する説がある。)  この、真意は、つまり、最後には自身の命を、神である、月の王様と、お妃さまに預けると言うものです。  それは、ここで行おうとしている、和平の提案に、自分の命を掛けているのだという、メッセージなのでした。  なお、王様の決定に口を挟めるのは、お妃さまのみなのです。  音楽は、千年以上後に、リヒャルト・シュトラウスさまが書くことになる、『七つのヴェールの踊り』を、元ひみこさまの妖術で、過去に移入したものでした。  ただし、都の楽団が演奏できるように、編曲されていましたが。  それでも、それは、アスカの人々にも、遥かな北欧からの客人にも、さらに、月の人々にも、まさに、驚異的な音楽でありました。        ・・・・・・・          💃  注) 『七つのヴェールの踊り』は、聖書の記述に基づき、オスカー・ワイルドさまが書いた戯曲を元に、リヒャルト・シュトラウスさまが、1903年から1905年にかけて書いた、歌劇『サロメ』に取り入れられている、名高い音楽である。サロメは、ヘロデ王の求めにより、その踊りを舞い、褒美として、預言者ヨカナーン(ヨハネ)の首を要求する。歌劇全体の中でも、この場面だけが、かなり異質で突出している側面がある。それは、批判の理由にもなるが、これがなければ、このオペラの存在自体が成り立たなくなりかねないほどの力がある。
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