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和臣が険しい顔つきで、俊太の前に立ちはだかる。
「……っ」
俊太に獰猛な土佐犬に睨まれた過去が蘇る。和臣に対する恐怖で声が出ない。和臣の逞しい腕に叩きのめされ、衣服を脱がされ、大木に吊るされ、凶暴なカラスに抉られ、水をかけられ、さんざん嬲られる自分が脳裏に浮かぶ。疾走する馬に引き摺られて苦しむ自分の姿も目前を過った。どうしてこんなに次から次へと恐ろしい場面が連想されるのか、俊太自身、見当もつかない。
「……お前?」
教師に向かってお前とはなんだ、と俊太は言い返したいができなかった。
そもそも、和臣は理事長のお気に入りであり、教師陣の信頼が厚い優等生だ。言葉遣いや態度が悪いなど、俊太はまったく聞いていない。
「…………っ……うっ」
和臣に対する恐怖心で指一本、動かすことができない。大きな和臣の手により、沸騰した湯に放り込まれる自分の姿も眼底に出現した。悶え苦しむ自分を嘲笑う和臣は人の皮を被った悪魔だ。俊太の中で恐怖心と憎悪が微妙に交じり合う。
「お前、女だろ?」
一瞬、和臣が何を言ったのか理解できず、俊太は強張った顔で聞き返した。
「……はっ?」
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