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広い敷地内は豊かな緑に覆われ、どこからともなく鳥のさえずりが聞こえてくる。他の生徒たちは挨拶をしながら風のように通り過ぎていった。
「女のくせにどうしてここにいる?」
数多の著名人を各界に輩出した伝統校には、享和魂と呼ばれる自尊心があり、今でも脈々と受け継がれている。特に中等部から享和学院に通っている中上がりの生徒は、クールに見えて非常に熱い。和臣も享和魂を持つ享和ボーイのひとりに数えられ、正義感に熱く、悪には容赦しない。
今の和臣は悪を糾弾しようとする享和ボーイそのものだ。恐ろしい生徒はスーツ姿の教師を女だと間違えている。
ようやく我に返ると、俊太は掠れた声で言い返した。
「……お、お、お、お、お、俺は男や……男……教師やで」
俊太は整った顔を派手に歪め、自分の性別を故郷訛りの言葉で公言した。もっとも、今までの人生の中、一度も性別を間違えられたことはないし、女っぽいと揶揄されたこともない。どう考えても、間違える和臣の目が異常だ。
「享和に女の教師はいない」
和臣は尊大な態度で否定し、取りつく島もない。
「……だ、だから、俺は男なんや」
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