真紅のバラのように

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真紅のバラのように

 さっそくマジシャンは真っ白なウサギの姿を思い浮かべ、シルクハットに手を入れる。いや、単に白いウサギじゃつまらないな。  じゃあ、真っ赤なウサギでも出してみようか。次の瞬間、マジシャンはシルクハットの中から真っ赤なウサギを引っぱり出すことに成功する。耳の先から尻尾の先まで真紅のバラのように赤く染まったウサギだ。  シルクハットを頭にかぶったマジシャン、今度は鎖でグルグル巻きにした古道具屋を床の上に横たわらせ、あやしげな呪文を唱える。  古道具屋はふわりと宙に浮く。当たり前だがピアノ線で吊り上げるなどという装置はどこにもない。古道具屋は地球の重力に逆らい、純粋にふわふわと宙に浮かんでいるだけだ。  やがて古道具屋をグルグル巻きにしていた鎖が少しずつ解けはじめる。狡猾なヘビのように巻きついていた鎖は古道具屋の体から離れはじめ、今度は店の床の上にとぐろを巻く。  宙に浮いている古道具屋はそのあいだずっと宙に浮かんでいたが、マジシャンがパチンと指を鳴らすと、次の瞬間には床の上に立っている。何事も起きなかったみたいに。  同時に床の上でとぐろを巻いていた鎖はニンジンが積み重なった姿に変わり、さっきシルクハットから取り出した真っ赤なウサギがさっそくニンジンをポリポリと齧りはじめていた。ニンジンを食べるウサギの身体が、今度は真っ白に染まってゆく。まるでニンジンがウサギの身体を染めていた真っ赤な色素を中和してゆくみたいに。
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