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「秋葉くん、これ」
瀬名さんから缶コーヒーを渡された。すんませんと言って受け取った時、自分の声がしゃがれていることに気づいた。
戸惑う俺に、瀬名さんは眼鏡の奥の瞳を細めて笑った。
「こんなこと言うの、不謹慎だけどね。……ちょっと安心した。秋葉君もあんな風に取り乱すことあったんだね」
そうか。俺、一臣の名前叫びすぎて、喉がかれたのか。
今さらながら恥ずかしくなってくる。
「あ、……誤解しないで? 人間らしくって良いって言ってるの。秋葉くんって、感情が見えない時あって、ちょっとだけ心配だったから」
瀬名さんは一旦会社に戻ってから病院に戻ってきてくれた。多分俺のために。渡された缶コーヒーと同じくらい温かい人だと思う。
「……中の人、友だち?」
そう聞かれて、迷ったのは一瞬だった。誠意ある人に対して、嘘はつきたくなかった。
「いえ。……昔、好きだった奴、です」
「え」
「引きますか?」
瀬名さんが何か答える前に治療中のランプが消えた。物音がして、集中治療室の扉が開いた。思わず、俺も瀬名さんも立ち上がる。
帽子をとりながら、医者が俺たちに頭を下げた。思ったより若そうだったけど、目も落ちくぼんで、疲労の色が濃い。天然パーマ的な髪をかきむしりながら、医者は言った。
「……臓器はそこまで傷ついてはいなかったのですが、頭を強く打っていまして、非常に危険な状態です」
すっと俺の首元が冷たくなる。
ああ、やはり死ぬのか。こいつは。
わかっていたことなのに、今さらショックを受けていた。
「やるだけのことはしましたが、意識が戻らないと何とも。……あとは、彼次第です」
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