涙を流すことなんて(一生)ないと思っていた。

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「……あき、ば?」  明け方。夢か現で、アイツの、一臣の声を聞いた気がした。  いつのまにか眠ってしまっていたらしい。あわてて一臣の顔を覗き込むと、黒目がちな瞳と目があった。 「秋葉……?」  今度ははっきりと聞こえた。高校の頃と何も変わらないアイツの声。離ればなれだった五年なんて一瞬で帳消しになる。 「一臣!」 「……秋葉。よかった。おれ、ずっとお前に会いたかったんだ……」  まだ目覚めたばかりで、一臣はぼうっとしているようだった。もしや俺と会っているのも夢かと思ってるのかもしれない。  だけどそれでかまわない。目覚めてくれただけでいい。  一臣の手を思わず握ると、弱々しかったけど、握り返してくれた。 「俺、ずっと秋葉に言いたいことがあったんだ」  夢見心地な顔で、一臣が微笑む。 「俺、川口さんと付き合ってない。お前、逃げちゃって、……言えなくて、だけど、俺はずっと、秋葉のこと……」  好きだったよ。  吐息まじりの優しい告白に、俺の喉の奥がカッと熱くなった。止める間も無く俺の両眼から熱いものが溢れだした。  なんだこれ。  まさか俺が。 「秋葉、泣いてるのか?」  驚きすぎて返事もできなかった俺を見て、一臣はとてもうれしそうな顔になった。 「そっか……。お前、泣けるようになったんだな」  よかったな。  そう呟いたかと思うと、一臣はまた瞳を閉じた。  安らかな寝息に、全身の力が抜けた。  大したやつだよ、お前は。  不死身の男で、そして俺にとっては魔法使いだよ。お前は。  特殊能力と引きかえに、涙を失った。その呪いを、まるで魔法のように鮮やかに解いてくれた。  だからお前に惹かれたのかもしれない。  ぬくもりを取り戻しつつある一臣の手に、十五年ぶりの涙がぽたぽた落ちる。  俺も好きだよ。一臣。  だから早く、目を覚ましてくれ。  今度は逃げずに、ちゃんと言うから。
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