ケイト

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ケイト

 私には秘密がある。決して口外出来ない秘密が。 「ママ、おかえり!」 「ただいま、ケイト」 帰宅した私に駆け寄って抱きついてくる娘。色鉛筆で描いた家族の絵を無邪気に見せるこの子は知らない。“ママ”と呼び、その綺麗な瞳がとらえる女はほとんど人間ではなくなってしまった、という事を。 先月、私は中東の戦場にいた。 任務は順調に進み、自宅にいる娘に明日帰宅すると電話で告げたその日。 ある一人の“味方“に裏切られ、この身をボロボロにされた。 砂漠のど真中、薄れゆく意識の中で最後に感じたのは、この身から大量に流れる血の臭い、負傷した仲間の悲鳴、遠ざかる裏切り者の背。 死を覚悟した私が次に目覚めたのは軍の研究所だった。 首から下の感覚がなくなっていることに気がつき、絶望と憎悪で泣き叫ぶ私。 病室のような部屋のドアがガチャリと音を立てて開いたのはその時だ。入ってきたのはよく知る軍の上官と見知らぬ白衣の研究員。 事の次第を聞かされ、もう一度任務に出るように通達される。 「こんな身体でどうしろって言うの?」 「アリッサ、どうか落ち着いて聞いてほしい」 「あなたの肉体は…」 泣きじゃくる私、なだめる上官、白衣の研究員のやり取りの末、与えられたモノ。 戦闘用エクソスケルトン。 BMI(ブレインマシンインターフェイス)。 機械仕掛けの体と脳内のコントローラーを得た私はその日から晴れて軍のお人形さんになったのだ。 胸に抱いたこの子に、私の肌の感触や体温は全て偽物だと告げたらどう思うだろうか。 決して口外は出来ない。
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