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異世界から真の聖女が召喚された。神聖な全てを受け入れる黒い髪と黒い瞳。透き通るような白い肌。彼女は非常に慈悲深く、彼女が現れる前にいた偽の聖女に慈悲をかけた。
「どうか、彼女を私の侍女にしてください。」
こうして追放される予定だった偽の聖女は真の聖女の侍女になった。
「……何故、私を侍女に?」
銀髪に赤い目。偽の聖女と断じられた女性は、真の聖女に問う。真の聖女は振り返り、浮かべていた慈愛の微笑みを消した。
「助けてくれ!!」
「……え?」
悠然と微笑んでいた真の聖女はみっともない表情を浮かべて偽の聖女に縋りつく。
「な?!は、離してください聖女様!!」
縋りついてくる真の聖女を引き離そうとする元聖女。しかし
(力強いな?!おい?!)
聖女の力(物理)は予想以上のものでどうにも引き離せない。
「本当に無理!!」
真の聖女は混乱しているようで涙目だ。見目が良い人物に涙目で上目遣いされると、何かくるものがある気がする。元聖女が少しひるんだ瞬間、真の聖女は叫んだ。
「だって、だって俺、聖女なんかじゃないし!!」
そう言ってドレスを脱ぎ捨てた真の聖女の胸元は女性のものとは思えないほど薄かった。
「……は?」
元聖女は思わず静止する。そして
「えっと、随分スレンダーですね?」
「違うから!!現実逃避はやめて!!現実逃避したいのはむしろこっち!!」
元聖女は涙目で訴える真の聖女を見る。顔と、胸元を。しかし元聖女は今まで聖女として育てられてきた。例え偽の聖女だと言われようとも。
そう、つまり彼女は
「こういう胸にはどういう下着が良いか他の者の意見も聞きましょう!」
他人の裸を見たことが無かったのだ。
「どうしてそうなるんだああ?!」
真の聖女は頭を抱え、早速他人の意見を聞きに行こうとする元聖女を止める。
「良いか、俺は、男なんだ。」
「はあ……男。聖女でも男だったりするんですね?」
「聖女は女性の役職だろ?!さっき異世界の人言ってたじゃん?!聖なる力を多く持つのは女性限られる。だから聖女という役職があるとかなんとか!!」
「そうですね。」
「俺が男だってばれたらどうなると思う?」
「……良くて追放、悪くて処刑じゃないでしょうか?」
「だよな!!長年この国に尽くしてきた君を、俺が現れたからとかいう意味不明な理由で追放しようとした連中だもんな!!まともじゃないと思ってたよ!!」
この言葉に元聖女は目を輝かせる。
そう、彼女も今まで盲目的に尽くしてきた国に裏切られて思っていたのだ。この国は、まともじゃない。
真の聖女が男だと告発すれば、自分がまた聖女に戻れるかもしれない。しかしそれは今の彼女にとっては全く魅力的じゃなかったのだ。
「よし。逃げましょう。」
「え?」
「だから、私とあなたで逃げるんです。」
「思ったよりたくましいな……。」
こうして真の聖女の性別を隠したまま、聖女による聖女のための聖女の逃亡劇が幕を開けたのだった。
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