屈託

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「どうした? 雅文」  無意識に浮かべてしまっていた憂い顔に、沢井は敏感に気づいたようだ。  問われて、黒崎は根強く残る不安を吐露する。 「……父さんがあのまま諦めるとは思えない……和浩さんに手出しをして来たらどうしよう……?」  黒崎にとってそれは自分自身が傷つけられるより怖いこと。  なのに、沢井は何でもないことのように笑う。 「俺のことなら心配ないって。絶対に負けはしないから」 「でも……」 「それより、俺はおまえの方が心配だよ。またさらわれるんじゃないかって。しばらく仕事休んで欲しいんだけど、おまえの性格だとそれは無理だろうな」 「……うん……これ以上患者を放ったらかしになんてできないもん」  沢井は黒崎と目線を合わせて来て、おでことおでこを合わせる。 「シフトが重なるときは一緒に行けるけど、別々の時はくれぐれも気を付けること。人通りの少ない道は避けて、遠回りになっても賑やかな通りを歩くこと。分かったな」 「ん……」 「あー、やっぱり心配だな。……いっそのこと雅文、黒崎家から戸籍抜くか?」 「は?」  戸籍を抜く? 「……そんなこと簡単にできるの?」 「分籍すればいい。……今回役に立ってくれた探偵がきっとそっちの方にも詳しいと思うから」 「でも、黒崎家から抜けて、どうするの?」 「俺と養子縁組すればいい。そうすれば少なくとも黒崎家に縛られることは表面的にだけでもなくなる」 「和浩さんと養子縁組?」 「そう。おまえは沢井雅文になるわけだ」 「沢井、雅文……」 「なかなかいい名前だな」 「……和浩さん……」  涙が滲んだ。
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